• 2018.05.30
  • アンダルシアの中庭に春が来た!
聖週間・イースターの前後から春の訪れを祝うお祭りが各地で開かれます。特にその中でも、大きな張りぼて人形を燃やして祝う“バレンシアの火祭り”、約一週間、飲んで、歌って、踊りまくる“セビリアの春祭り”、そして夏を迎え、7月7日に始まる“パンプローナのサン・フェルミン祭り“、文豪ヘミングウェイやお祭り男の宮川さんも参加した、命がけの牛追いで知られていますね。これらがスペイン三大祭りと言われています。

もちろんそれら以外にも各地で個性的な催しが目白押し。今回はアンダルシアの古都コルドバでいかにも春爛漫のお祭りを拝見してきました。2012年にユネスコ世界無形文化遺産にも登録されるというお墨付きを獲得した“La Fiesta de los Patios de Córdoba-コルドバのパティオ祭り”です。

水遣り乙女のモニュメントを使った今年のコルドバ市パティオ祭り公式ポスター

パティオというのは中庭のことで、家の中心部を屋根の無い吹き抜けにして、明かりを取ったり、風通しをよくするための空間です。庭を囲んで家を建てるといったほうが正確かもしれません。京町屋の坪庭を想像して頂くと当たらずとも遠からずかな。とは言ってもその意匠たるや、方や日本はアジアでも一番東の国でトレードマークは“わび、さび”、もう一方スペインは西欧のそのまた西の端、“光と影、情熱の国”。当然の事ながら、庭の風情が“かやくご飯“と”パエージャ“ほど違うのは写真をご覧いただければ一目瞭然ですよね。そもそも比べる事自体無理があるかもしれません。

春爛漫。

右端には水遣り竿が立てかけてあります。

遠くはローマ時代以前からの歴史あるコルドバは、スペイン南部での定石通り、8世紀から13世紀までアラブ王国としてイスラム文化が花開き、また西のメッカと呼ばれるほど宗教的にも重要な都市でした。建築もイスラムの伝統に従って外観は他人に嫉妬心を抱かせないよう、なるべく質素にし、内部の住空間を快適に整えるという、グラナダのアルハンブラ宮殿に代表される様式なのです。自身の美しさをひけらかさない、秘すれば花ということでしょうか。

旧市街の中心にあるこれまた世界遺産のメスキータ(回教寺院兼司教座聖堂)にある“オレンジの中庭”です。自然冷却装置の小石が敷き詰められています。

コルドバの“パティオ祭り”では毎年コンクールが行われます。それに参加する中庭は基本的には個人の所有で、多くが飾り気のない外観ですが、内側に美しい空間が隠されています。しかしそれを独占するのは気が引けるというか、心の片隅にある“自慢したい”という健全で最良な意味での自己顕示欲を刺激されるのでしょう。今回も50軒の御宅がコンクールに参加し門戸を開いてくれました。 何軒かの共同管理もあれば、貴族の屋敷跡などは一軒で12もの中庭を抱えているところもあり、親戚や友人でもない限り普段訪れることが出来ない中庭に人々を迎え入れてくださいます。

中庭巡りオフィシャルマップです。6ルートあってコンクール参加は50軒、 参考パティオは12か所。

中庭を飾る花や草木のお世話も大変な仕事でして、夏の強烈な日差しを反射させるために石灰で白く塗りこめられた壁に吊り下げている鉢には、ホースでバシャバシャ散水するわけにもいかず、竿の先に再利用の空き缶をつけた素朴な道具を使って一個々々に丁寧に水遣りをする姿になんとも風情を感じます。

ポスターにも使われたパティオ記念碑の全体像です。バケツとお嬢さんはブロンズ製でも花は生花。

ちなみに古いパティオでは高価な大理石の代わりに小石を敷き詰めた床面が多くみられます。暑い夏の昼下がり、打ち水をして熱気を奪う気化熱作用をなるべく効果的に利用する為に小石を凸凹に配置して表面積を広くし冷却効率を上げるという生活の知恵です。草花に囲まれたパティオの日陰でのシエスタ・タイムを快適に演出してくれますし、水を打った後の涼しげな空間でお客様をお迎えする“おもてなし”効果もあります。これは洋の東西を問いませんね。

小石を敷き詰めたパティオの床面。

紋章を埋め込んだ凝った作りもありました。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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