まずスペインではハムをJamón ハモン と呼びます。この言葉、加工された豚の後ろ脚の総称で、通常は塩蔵熟成加工品いわゆる生ハムを指します。ちなみに前足を同じ方法で加工したものはハムではなくPaleta パレータまたはPaletilla パレティージャと呼んで区別します。また日本では“生”を付けますが、これは販売されている多くの“ハム”が熱処理加工されたものなので、燻製処理もふくめて一切の加熱工程がないスペインのハムにあえて“生”をつけたのでしょう。 さばいて、塩をして、自然乾燥しただけで加熱加工をしない鯵の干物を他国で“生鯵開き”と呼ぶようなものかもしれませんね。
さてこの生ハム、気温と湿度がハムづくりに適したスペイン各地の山間部で作られていて Jamón Serrano ハモン・セラーノ(山のハム)とかJamón Curadoハモン・クラード (熟成ハム)とも言います。お値段もピンからキリまで、ご近所スーパーの生ハムコーナーでは写真の如く100gあたり2.9ユーロのお手軽ハムから
18.9ユーロの高級品までのラインアップです。
お隣のスーパーのハム売り場、ケースの中はロースハムやらベーコンなどの加熱・燻製加工品。
原木でも販売しています。なぜ豚の脚が“木”なのかよくわかりませんがそう言われてみると確かに色といい形といい木に見えますかね。必ずしも大家族でなくても原木一本買いは珍しくありません。
最近日本でも話題になっているのが生ハムの最高峰と評価されるJamón Ibérico de Bellota ハモン・イベリコ・デ・ベジョータ、これはドングリ飼育イベリコ種豚のハムです。
他のハムとの違いを生む3つのキーワードは
その1.豚の種類: イベリア半島原産のイベリコ種豚使用。6種類のバリエーションがあり必ずしも喧伝されている“黒豚”だけとは限りません。茶色に黒いぶちがある豚君も立派なイベリコ種です。母豚、父豚双方が純血種だと100%イベリコ、母豚が純血種で父豚が他種との混血だと75%イベリコ、母豚が純血種で父豚が他種だと、50%イベリコとそれぞれ区別して表示します。
その2.育成環境:dehesaデエッサと呼ばれる、樫や楢、オリーブなどが生えた丘陵地帯での放牧飼育。
餌を探しながら、自然の中を駆け回って自由気ままに育つのが肉質に良い影響を与えるとか。
品質管理機関の定めた原産地呼称規則では1ヘクタールあたり2頭以上は放牧できません。
樫の木陰で仲良くシエスタ・タイム。イタリア豚と違い、各自それぞれ腹ばいになったり、右左構わず横になって思い思いに寝そべっていました。
その3.育成飼料:10月から12月にかけて木から落ちたドングリの実が肝心。それ以外にもオリーブや草、根っこ、鼻先で地面をほじくり出てきたミミズまで食べるのでドングリの実だけで育てたわけではありませんがオレイン酸をはじめ健康によい栄養素を豊富に含ませるにはこのドングリ効果が欠かせない要素です。このドングリ林放牧法で育った豚にだけbellotaベジョータ(ドングリ)の名称を付けることが出来ます。 放牧期にドングリが少ないときにceboセボ(飼料)が与えられた豚はセボ・デ・カンポと明記する規則で、お値段も若干下がります。
これらの条件を満たして ドングリ飼育イベリコ豚ハムと名乗れる原産地呼称認可された産地はスペインの中・南西部に4か所あります。
Dehesa de Extremadura エストレマドゥーラ州のデエッサ(バダホス県、カセレス県)
Los Pedroches ロス・ペドローチェス (コルドバ県)
Jamón de Helva ハモン・デ・ウエルバ(ウエルバ県)
Guijuelo ギフエロ (サラマンカ県)
事程左様に同じイベリコ・ハムと言っても純血度、餌の種類などの多くのバリエーションがあります。
この高級ハムの中でも最高峰(少なくともお値段では)で、ギネスブックにその高価さで登録された超スペシャル生ハム、イベリコ100%純血豚、エコ環境放牧ドングリ飼育 のお値段は一本(7kg~9kg)で4100ユーロ 約50万円。一本ということは蹄、骨、皮、脂身、等をすべて含んでいますから、実際に食用に適する部分はその半分、つまり約4kgで歩留まり最悪、結局100gのお値段は約1万3千円に跳ね上がります。
ご参考までに販売会社のHPです。
http://www.gourmetdeibericos.com/tienda/es/jamon-de-huelva/149-jamon-mas-caro-del-mundo.html
ちなみにこの最高値ハムは当然純血100%イベリコ種ですが、黒豚ではなく、茶色で黒いぶち模様のある“Manchado de Jabugo マンチャード・デ・ハブゴ”と呼ばれる種類でウエルバ県の出身です。
茶色で黒ぶち模様でも純血イベリコ種豚。同じウエルバ県にある “Eiríz社”のHPからお借りしました。 http://www.jamoneseiriz.com/web/galeria_imagenes_jamon_iberico.php?numpag=3
さて、塩蔵、乾燥、と工程が進み3年の熟成期間を経てようやく完成したイベリコ豚の生ハム、指でつまんで色と感触を確かめ、香りを嗅ぎ、舌に乗せて瞬時にとろける脂を感じ、噛んで染み出る味を100%堪能するために重要なのは専用ハム切包丁で絶妙に切り分ける生ハム切り出し職人の匠の技です。とはいってもほとんどのご家庭にもハム切包丁があり、原木対応はお父さんの腕の見せ所。
職人技、ハムを固定する器具も当然プロ仕様。
このハモン・イベリコ、最近では日本の高級スーパーのグルメ・コーナーに登場しているので、見かけたら、ぜひお試しください。多分真空パックが冷蔵棚におかれているとおもいますので、御賞味の際は開封して30分ほど室温に戻していただくとより一層風味を楽しめるはずです。待ちきれない方は開封前のパックをぬるま湯にさっとくぐらせる時短法もあります。
しかしイベリコ・ハム以外の生ハムもそれぞれ個性があり、お値段も手ごろなので、そのまま食べるだけでなく、野菜と炒めたり、スープの具にしたり、レンジで加熱してカリッとさせサラダに混ぜるなど、調理食材としても親しんでください。
生ハム薄切りパック。80gで2ユーロ(12か月熟成品)50gで1ユーロ(25%減塩仕上げ)そのまま食べても、加熱調理にもと普段使いの常備品です。