30年程前、スペインの鉄鋼業界を担う為、当時の最新製鋼プラントを日本の技術で立ち上げるプロジェクトがあり、日本から30名余りの技術者や現場作業員が派遣されました。その際、海外勤務経験の豊富な先輩社員から伝授されたのが表題の“五つの『あ』” にまとめた現地で働く際の心構えです。このプロジェクトを補佐する通訳グループの一員として参加した時に教えて頂きました。
その1、『あせるな』
三顧の礼をもって迎えられたのならいざ知らず、とどのつまりは顧客への技術供与契約ですから、先様の都合に合わせるのはしごく当然な話、日本での常識が通じない上、家族と離れて慣れない異国での生活もあり、業務を早く終わらせて帰国したいという、はやる気持ちは理解できますが、あせって空回りすればかえって逆効果、覚悟を決めて腰を落ち着けなさい。
その2、『あてにするな』
言わなくてもやってくれるよねとか、多分大丈夫でしょうとか、日本でいつも付き合っている同業者間の“あうんの呼吸”など求める方が間違っています。期待しなければ失望も無いと割り切りましょう。
その3、『あたまにくるな』
人間、我慢の限界をこえることもあるでしょう。しかしその限界は人それぞれ、国民性にも左右される微妙な境界線です。日本の常識は他国の非常識かもしれない、と沸騰前にもう一度立ち止まってみては。
その4、『あきらめるな』
もう駄目だと諦めて尻尾をまいて退散すればその場しのぎにはなりますが、なぜあの時逃げてしまったのだろうと、末代まで遺恨を残しかねません。しぶとく、しつこく、しんぼうづよく、したたかに、しがみつく。これは五つの『し』。
その5、『あなどるな』
大企業から海外長期出張を任せられた言わばエリートのエンジニアや作業員、現地の担当者よりも“出来る”つもりで上から目線の態度で接していると想定外の逸材に出くわしてしっぺ返しを食らいます。出る杭は打たれる、皆一緒に平均点を高くしましょうの日本と比べ、突然変異の天才がしばしば出現する国スペイン、見くびってはいけません。
以上5項目、アフリカや東南アジア、中国やラテンアメリカなどで勤務していた“企業戦士”達の間では定番の言い伝えのようで、『あわてるな』や『あまやかすな』などを含めた様々なバージョンがあります。
しかし、よく吟味してみると日本国内でもバブル世代、ゆとり世代、さとり世代、等々いままでとは違う考え方の新しい世代と付き合う際にも役立ちそうな心構えですね。外国人並びに新人類と向き合う時の心構えの五つの『あ』とも言えそうです。
- 2020.02.07
- 五つの『あ』