最初の接種から約一ヵ月経過した1月31日の時点で合計160万9261回分接種され,そのうち35万7892人はすでに二回めの接種を終了しています。このワクチン接種に関する日々の進捗状況は政府の特設HPで確認できます。
https://www.vacunacovid.gob.es/
図1
ここに示した図1.からは2020年12月27日から2021年1月25日までの全国17州・2自治都市におけるワクチン供給量(Pfizer/BioNTech社製と Moderna社製 そしてその合計)・接種済み回数・供給量に対して接種済みの割合・二回接種済みの人数・最終報告日が読み取れます。
このワクチン接種報告データ、一見おかしな数字が記載されています。赤線で囲んだ6州ではワクチン供給量を上回る接種回数が記載されていて全供給量100%以上の量が接種されているのです。そしてそのからくりは注(1)を見ると理解できました。1バイアル(1瓶)当たりの歩留まりを途中から高くしたのです。
注(1)・・・Pfizer/BioNTech社ワクチンの供給量数値は1バイアル当たり5回分として計算されています。その後当該製造会社は状況に応じて1バイアル当たり6回分目の抽出可能性を追加する変更を行いました。
1バイアル(ゴム製の蓋で密閉されたガラス瓶)中には氷点下80度から60度の凍結濃縮状態ワクチンが0.45ml入っています。Pfizer/BioNTech社の仕様では解凍後に生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム)1.8mlで希釈して合計2.25mlにしてから接種するとあります。
投与量は一人一回0.3mlですので単純計算ですと2.25ml÷0.3mlで1バイアル当たり7.5回の接種が可能になる計算です。原液1に対して4倍の液体を混ぜるので、5倍希釈となりカルピスの薄め具合と同じ程度かな?麺つゆでは5倍濃縮タイプですね。ただし取り扱い中の目減りや注射器・注射針中の残存量などを考慮して余裕を持たせ、あえて当初は5回分としたのでしょう。しかし今年1月にバイアル当たり6回接種と仕様の変更を行いました。
この変更を実行するためには接種に使用する注射器の形状が重要な要件です。そこで薬液を効率的に使用する目的で設計されたローデッド・タイプと呼ばれる注射器が必要になります。
①ローデッド・タイプ注射器と②通常の注射器に一回分の0.3mlを充填した状態です。
注射器のプランジャー(押子)を押し切った状態で、①と②では注射器の筒先に残ってしまって、廃棄される薬液量の差が見て取れます。
この残量を最小限に抑えるために必要な特殊な注射器ですが、スペインでは先日来このタイプの注射器が足りなくなって多量のワクチンが無駄になっているとの報道がありました。突然1瓶からの抽出量が5回から6回に変更されたのですからその混乱具合は容易に想像できます。
ABC sociedad 紙 2021年1月21日
La falta de jeringuillas adecuadas para administrar la vacuna provoca el desperdicio de dosis en toda España.
Pfizer ha confirmado a este diario que para extraer seis dosis de un solo vial se deben utilizar las llamadas jeringas de 《bajo volumen muerto》 las estándar causan que esa sexta dosis no se pueda aprovechar.
ワクチン接種用の適切な注射器の不足でスペイン全国でワクチンの無駄遣いを起こしている。
ファイザー社は当紙に『1バイアルから6回分のワクチンを抽出するには《ローデッド・ボリューム》と呼ばれる注射器を使用するべきであってスタンダードタイプの注射器では6回分目は利用できない』と言明した。
https://www.abc.es/sociedad/abci-falta-jeringuillas-adecuadas-para-administrar-vacuna-provoca-desperdicio-dosis-toda-espana-202101211359_noticia.html?ref=https:%2F%2Fwww.bing.com%2F
またアメリカでもPfizer-BioNTech社製のワクチン接種に対応する特殊注射器が不足しているという記事がロイター通信社から発信されました。
『Plan de EEUU de sacar más inyecciones de los viales de Pfizer, obstaculizado por producción de jeringas』25 ene (Reuters) - El mayor fabricante de jeringas del mundo no tiene la capacidad de aumentar sustancialmente los suministros a Estados Unidos de jeringas especiales para extraer más dosis de los viales de la vacuna COVID-19 de Pfizer Inc en las próximas semanas, dijo un ejecutivo en una entrevista.
『ファイザー社製ワクチン・バイアルからより多くの接種量を活用するという米国の計画は注射器生産の壁に突き当たった。』
25日1月( ロイター) - 世界最大の注射器メーカーの幹部はインタビューで、米ファイザー製のCOVID19ワクチン1バイアルからより多くの接種量を抽出する特殊な注射器を今後数週間で大幅に増産する能力は持ち合わせていないと述べた。
https://www.reuters.com/article/salud-coronavirus-jeringas-idLTAKBN29U1KB
ちなみにこの記事にある注射器メーカーBD(Becton Dickinson )社のスペインに於ける製造拠点はピレネー山脈を挟んだフランスとの国境地帯のAragónアラゴン州Huescaウエスカ県Fragaフラガ市にあり、すでに5億本のローデッド・タイプ注射器が生産・発送されています。
BDスペインで製造されているワクチン接種用の針付注射器。このタイプでは筒先に残る薬液を最小限にすることが出来るのでPfizer-BioNTech社製のワクチン1バイアル当たり 7回接種も可能とのことです。
BDフラガ工場俯瞰。
日本の場合は、厚生労働省が昨年7月31日付でファイザー社との基本合意に達し、開発成功時には令和3年6月末までに1バイアル当たり5回接種で計算して6000万人分(1億2000万回接種)2400万バイアルの供給を受けるとしました。
その後今年1月20日付けでファイザー社と締結された正式契約では接種量が1バイアル当たり6回分と変更されたのでバイアル供給数は2400万個と変わりませんが接種回数は2割増しで7200万人分1億4400万回となり、納入期日も6月末から年内までにと変更されました。ニュースでは『6000万人分で基本合意していたが、1200万人分を追加した』とありましたが、1バイアルから5回でなく6回分を抽出するだけの話なので追加注文したわけではなさそうです。しかし価格はバイアル個数ではなく接種回数で計算されるようなので実質的には2割の値上げとなりますね。
当然ながら注射器も1バイアル当たり6回接種に対応する無駄が出ないタイプが必要となります。日本ではワクチンはもとより接種用の注射針と注射器も国からの支給とのこと、世界各国間でローデッド・タイプ注射器争奪戦が起こっている中、日本はこの若干特殊な注射器の確保もワクチン同様ぬかりなく対応されていると思います。
というのも、未だワクチンが承認されていない現時点(2月2日)で既に、陣頭指揮をとる新総理の下、国民の健康を守り、健全な医療体制を維持する役割の厚生労働大臣以下新型コロナ対策担当大臣、ワクチン接種推進担当大臣を置き、かてて加えて政府与党内にも“新型コロナウイルスに関するワクチン対策プロジェクトチーム”を立ち上げるなど一丸となって総力戦の準備が整った模様ですから。
それに引替えスペインではコロナ禍真っ只中の1月26日に新型コロナウイルス対策の先頭にいた保健相の Salvador Illaサルバドール・イジャ氏が辞任して中央政界から去り、2月14日に投票が行われる彼の故郷カタルーニャ自治州議会選挙で州の首相候補として出馬表明をしました。
追伸
私事ながら先日焦って購入したのはインスリン投与用の25ゲージ100単位(1ml)注射器でした。これはスペインで不足しているローデッド・タイプです。しかし単価50セント(60円)で6本だけでは転売ヤーにもなれませんね。
転売を諦めた6本購入済のローデット・タイプ注射器