• 2021.06.03
  • リリア宮殿
 マドリードを訪れる日本人ツアーが皆無になって既に一年以上たってしまいました。昨年の3月上旬まで各旅行会社のマドリード半日観光コースの目玉は何といってもプラド美術館訪問、そして近年人気のピカソ作ゲルニカ鑑賞、連れていかれる感満載の免税店でのお買い物タイムと続き、最後に地元のレストランで本場スペインのパエージャ・ランチご賞味がお約束でしたね。

その中でも団体、個人、を問わず初めてマドリードに来た人は必ずと言っていいほど訪れるのがスペイン広場です。そこでドン・キホーテとサンチョ・パンサ、作者セルバンテスのモニュメントを背景に記念撮影するのは例えば道頓堀は戎橋の袂でランニングシャツと短パン姿で万歳ポーズするグリコのお兄さんの看板や金龍山、浅草寺の大提灯付き雷門に匹敵する、お上りさんが訪問証拠写真を撮影する定番スポットになっていました。

 そのマドリードを訪れた日本人ならだれでも知っているスペイン広場・Plaza de Españaから400m、歩いてほんの5分のところに多分いままで訪れた日本人はほとんどいないマドリードで二番目に豪華な大邸宅があります。ちなみに一番はこちらもこの広場からほど近いところにある国王陛下の宮殿です。
 
このお宅は個人の所有でつい最近まで特別な機会をのぞいて一般公開はされていませんでしたが2019年より事前予約してその一部を拝見することが可能になりました。その所有者はスペインの貴族のなかでも突出して古い家系を誇るアルバ公爵家で現在の当主は第19代アルバ公爵です。そのお名前も貴族にふさわしくCarlos Juan Fitz-James Stuart y Martínez de Irujo で公爵の他にも侯爵、伯爵、等々全部で37の爵位を持っていらっしゃいます。またマドリード・コンプルテンセ大学法学部卒で弁護士でもあります。

ちなみに2014年に亡くなった母君である先代第18代アルバ公爵(女性)のお名前は
María del Rosario Cayetana Paloma Alfonsa Victoria Eugenia Fernanda Teresa Francisca de Paula Lourdes Antonia Josefa Fausta Rita Castor Dorotea Santa Esperanza Fitz-James Stuart y Silva Falcó y Gurtubay
で現公爵をはるかに超える長さでした。そして持っていた爵位はなんと46タイトル、ギネスブックにも登録されたそうです。
この際ですからスペイン人で長い名前の双璧をなす人気の大作ゲルニカを描いた画家パブロ・ピカソの本名はPablo Diego José Francisco de Paula Juan Nepomuceno María de los Remedios Cipriano de la Santísima Trinidad Ruiz y Picassoです。

 話がそれましたが、このお宅の名称は Palacio de Liria リリア宮殿。アルバ家所有の家はスペイン各地にありますが、普段はこのマドリードのお屋敷にお住まいです。1767年から1775年にかけてネオクラシック様式で建設された本当の意味でのマンションでしたが、1936年11月スペイン市民戦争の戦火に巻き込まれて外壁を残しで内部は焼失してしまい、終戦後に復元されたのが現在の姿です。幸いなことに中にあった多くの貴重な芸術作品や歴史的資料等はプラド美術館、スペイン銀行、英国大使館等々に疎開してあったので戦火を免れて建物が復元された後に再び戻されて現在では一般の人々も一部を鑑賞できるようになりました。


リリア宮殿のファサード。

その200室もある大豪邸の装飾品たるやベラスケスが描いたマルガリータ王女様、ゴヤの手による第13代アルバ公爵(女性)の全身像、神聖ローマ帝国皇帝カルロス5世のお抱え絵師だったティチアーノに描かせた当家第3代アルバ公爵の肖像画、その他エル・グレコ、スルバラン、ムリージョ、レンブラント、ファン・ダイク等々の絵画や版画、ローマ時代の石像、タピスリーなどほとんど美術館状態です。

このような美術装飾品にばかり目が行きがちですが、このお宅の図書室の収集品も半端ではありません。セルバンテス作ドン・キホーテの初版本、コロンブスが息子に宛てた署名入り書簡、スペインを統一したカトリック王フェルナンド2世が亡くなる前日1516年1月22日に署名した最後の遺言書、カルロス皇帝のご両親フアナ1世女王とフェリペ1世王の婚前契約書、ティチアーノがアルバ公に送った絵画代金の請求書、など国宝級のお宝だらけです。


ドン・キホーテ初版本(1605年マドリード フアン・デ・ラ・クエスタ印刷所)


クリストファー・コロンブスの直筆書簡


フェルナンド2世署名の遺言書

お宅訪問は20人までの小グループにまとまってオーディオガイドと見張り兼補足説明役のガイドさんと一緒に居間や応接間、ダイニングルーム、舞踏会広間、書斎、図書室、等14部屋を拝見することになります。そのガイドさんが誇らしげに『ティチアーノの原画をルーベンスが模写した2作品以外この家の絵画はすべてオリジナル、原画でございます。』とのご宣託でした。

 また建物の裏手に広がる大庭園は部屋から垣間見ることが出来、さぞかし優雅な園遊会などが行われていただろうと想像できます。マドリード市街地図の中で私有地が緑地として緑色に塗られているのはこちらのお宅のお庭だけだそうです。


今でも公爵のご家族はこのダイニングルームで日々のお食事を召し上がっているそうです。窓から裏庭が垣間見えます。


アルバ公爵家の紋章。

 600年もの間、スペインに広大な土地を所有して各地で農業、牧畜、にも従事していたアルバ家の伝統を継ぐべく先代がアルバ家御用達のグルメアイテム販売を考えており、現当主がその意思を実現させた結果生まれたのがCasa de Alba グルメショップです。https://www.casadealba.es/


アルバ家特選100%イベリコ生ハム。公爵家ゆかりの地サラマンカ県ギフエロ産。あまりにも五輪ボランティアのユニフォームに似ているので一瞬TOKYO2020のスポンサーかと思ってしまいました。


コロナ騒動が落ち着き、海外旅行が気兼ねなくできるようになって、スペイン及びマドリード訪問をお考えでしたら是非ともお勧めしたいレアスポットです。
 
リリア宮殿公式HP
https://www.palaciodeliria.com
住所 :Calle de la Princesa,20, Madrid 28008
電話 :+34 915 90 84 54
Email   : info@palaciodeliria.com
営業時間   :月~日、祝祭日含む09:00~20:00 。
無料開放日 :月09:15分と09:45分入館分 前週月曜日12時に予約受付。

入場料は15ユーロ、65歳以上の高齢者、6歳から12歳までの小児、25歳以下の学生、失業証明書保持者、は割引料金で13ユーロ。

今回ネット購入した訪問時間指定入場券。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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