この生中継で最も感動を覚えたのは、ロンドンでの行事終了後に棺が埋葬される近郊のウィンザー城へ到着して城内の聖ジョージ礼拝堂内に安置され最後のお別れを告げる際、追悼のバグパイプのメロディーに合わせて地下の王室納棺堂 The Royal Vaultへ粛々と降りていく場面です。パイプ奏者が回廊をゆっくりと退出しながら演奏しているので堂内に響く音が徐々に小さくなり、そして棺も地下へと隠れていくという、 毎朝このバグパイプでお目覚めになったほど陛下がこよなく愛した音色で永遠の眠りにつかれた『女王エリザベス2世の生涯』という歴史長編大作のラストシーンにふさわしい演出で、長いお別れという言葉が頭をよぎりました。
写真1
写真2
写真1は地下の納棺堂へ降りていく棺。
写真2は女王陛下専属バグパイプ奏者の最後のお勤めの姿です。ここからゆっくりと奥の出口へ進みながら演奏を続けます。
写真3
さて埋葬と聞くと映画でもしばしば見るように棺を穴に下したあと上から土をかぶせるそれこそ棺を“埋める”光景を思い浮かべがちですが、イギリス王室の墓所であるウィンザー城内の納棺堂と同様スペインでも王家の埋葬は棺が土中に埋められることはありません。スペイン王家の霊廟はマドリードの北50kmにある王立サン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアル修道院内にありその中でも国王と世継ぎを生んだ配偶者のみが埋葬されている場所があります。そこはCripta Real ・Panteón de los Reyes と呼ばれる王室納棺堂内の王達の霊廟です。写真3.エル・エスコリアル修道院の全景です。ドームの下にはバシリカ教会堂がありその主祭壇の地下に王達の納棺堂があります。
図1
写真4
図1はその内部の棺の配置図です。皇帝と呼ばれたカルロス5世は1番の棺、そして向かい合うように2番の棺が王妃イザベルで始まり、代々の国王が続き25番と26番は現国王フェリペ6世の祖父にあたるバルセロナ伯爵フアン3世(*)とその妃であるメルセデス伯爵夫人の棺が入る予定です。というのも崩御されてからすぐ納棺ではなくこの納棺堂の横に作られたPudridero(ご遺体の安置所)という場所で30年から40年かけて自然乾燥させてから納められるのです。(*)王座につくことはなかった人ですが国王(アルフォンソ13世)の息子であり、国王(フアン・カルロス1世)の父であるのでこの霊廟に入ることになりました。
写真.4は王達の霊廟の一部です。
写真5
ちなみに1492年1月2日 イスラム教徒最後の砦であったグラナダを落としスペイン統一を成し遂げたカトリック両王の墓所はその功績を記念しグラナダ大聖堂脇の王室礼拝堂内にあります。写真5.地下埋葬室に安置されている鉛の棺、中央右がイサベル1世、左がフェルナンド2世 右の壁際には娘夫婦、フアナ1世とフェリペ1世、左壁際には二歳にならず夭折した孫にあたるアストゥリアス皇太子ミゲルです。
今回はエリザベス女王の国葬に感激のあまりイギリス特派員さんの縄張りまで侵入してしまいました。お許しあれ。