• 2020.07.01
  • お尻
ミラノの街は、かつての貴族のお屋敷やファシズムカラーの威嚇的な建物、経済難の家庭を救済するための公営住宅などが、どちらかと言うと混在しています。

貴族子孫が住みつづけている由緒ある地区、サッカー選手など最近売れっ子たちが好んで住む地区、アーチストが好むような良く言えば鄙びた雰囲気で悪く言えば殺伐した地区、公団が集まっている地区など、地域ごとの特色は一応色々あるにはあるのですが、様式が対照的な建物が隣り合わせで建っている所も多いです。

日頃から通りがかってよく見慣れている建物で、調べに行くほどの面白い歴史があるとは思わずにやり過ごし、その後ミラノ在住20年以上も経ってから、思ってもみなかった由来やエピソードを知ることが多々ある始末で、自分の怠慢さを痛感するこの頃。

その発見の一つにコロンブス クリニック。イタリアらしい微笑ましい背景がありました。お金持ちばかりが住んでいるこの地区の一つに、昔の貴族が住んでいたことがうかがえるお屋敷が残っています。「ここは、クリニックなのよ」とミラネーゼが教えてくれたことを覚えています。こんな素敵な邸宅がクリニック?!日本の一般的なクリニックとはまったく違う概念の建物でビックリしたものです。貴族が馬車で乗り入れをしたであろう玄関前の幅広いスロープも、表通りからその入り口を見ただけで、その建物全体の品格を察することが出来るのです。

ところが、見過ごしてはいけないものがその建物の横側にあったなんて、その当時知らずにいつも通り過ぎていたのです。

問題の横側とは、窓の下に飾られつけられた二人の女性彫像。半ヌードの女性彫像などは美術館などで鑑賞し慣れている現代の私たちには、この彫像はそういう芸術作品の一つでしかありません。が、1900年にこの彫像が作られた時は大層な物議を醸し出したのです。その物議の深刻さが伺えるのが、この彫像はもともとミラノ一の裕福人たちが集まる地区の邸宅のために作られたのですが、スキャンダラスな彫像ということで剥がされ、別の邸宅が引き取り、そこがコロンブス クリニックになったという経過です。

経緯は、裕福な起業家のカスティリオーニが、当時の人気建築家のソンマルガに、ミラノのブルジョワ階級が集まり住んでいるヴェネツィア通りに、他の建物と違う一際に素晴らしい素敵な建物を作ってくれるように依頼をしたそうです。カスティリオーニ家の裕福さやステイタス性を誇示できるような建物ということでしょうね。その当時のミラノは、アールヌーボーが流行っていて、建築家ソンマルガはミラノ風アールヌーボー、つまりリバティースタイルで建物を建てました。

そこまでは良かったに違いありません。

が、完成直後「おケツ丸出しの家」というあだ名がつけられ、あっという間に世間の議論を引き起こしてしまいました。

そうなのです、窓の下に彫られた半裸の女性像。
ミラノの一等地に、巨乳をあらわにした女性像とお尻を突き出した女性像は、その当時においては前代未聞のレベルのスキャンダルだったのでしょう。二つの半裸像はすぐに剥がされてしまいました。

建築家ソンマルガは、依頼人が希望したように他の建物より違う建物を作る面では成功したと言ってもいいでしょう。


何れにせよ、注目され、かつ万人に感嘆されるような作品を生み出すのは、本当に難しい、、、

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

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