• 2020.11.16
  • 国境を越えると
ミラノから約30分、40分ほど車を走らせて北上するとコモ湖。コモ湖は、特徴的な形でY字型の逆をしているので覚えやすいイタリアの湖の一つ。都会の喧騒に疲れたミラネーゼ達が、天気の良い週末などにコモ湖へ出かけ湖畔沿いにそびえ立つ山々や水面上に映る自然の色合いなどを愉しむ癒しの場所でもあります。1800年代の文学者マンゾーニが書いた「いいなずけ」という国民的文学の長編小説の出だしのくだりは、日本人が覚え込んだ有名な俳句をスラスラと謳いなぞるのと同じように、イタリア人がそら覚えして言えるコモ湖の詩的描写から始まり、コモ湖はイタリア人にとって象徴的存在となったのでした。

スイスとの国境と密接しているコモの町。コモを通り過ぎてイタリアの高速道路の最終地点にある国境。そこの税関も通り過ぎてスイスに入ると、他国に来た感触が即座に得られる事はよくよく考えてみると興味深いものです。1キロにも満たない移動にも関わらず、国境越えとは実に面白い体験で、街中にかかっている看板の色合いが違い、ガソリンスタンドの値段表示も違い、通貨も違うとたったそれだけで何だかとても遠い外国に来た感じがするもので不思議です。

私たちは流通の時代に生きていて、流通が発達したお陰で地方の特産物がたやすく手に入るどころか他国の商品も、それこそ海外の生鮮食品でさえ完璧な状態で自宅に届けられたりするわけです。

ところがEU統合前まではEU諸国外であるスイス製の商品もイタリアで売られていたものです。使い勝手が良くて好んで購入していた物がある時から売り切れのまま見かけなくなったと思ったら、後にスイスを訪れた際に見つけスイス製品であることがわかって一人で納得しました。

さて、私が時々コモに行く度に国境をわざわざ越えてたった5分だけの滞在であろうともスイス側に行くようにしている楽しみがあるのです。それは、コンソメキューブを買う事。スイス人が発明した極上で贅沢なスイス製コンソメだって?そんなの聞いたことが無いぞ!そんな特別なコンソメがスイスにあるの?と思うでしょう。ところが、どっこい。実は、クノールのコンソメキューブで〜す。

え?日本でも見かけるあのクノール??

そうなのです。イタリアで売られているクノールのコンソメキューブとスイスのそれはパッケージがほぼ同じでも実は味が違うのです。イタリア特にミラノでは、リゾットミラネーゼというお料理が存在する事から伺えるように、リゾットにコンソメは欠かせない要素です。ニンジン、セロリ、玉ねぎなどを煮込んでブイヨンを作り出しコンソメに仕上げるのが一番理想的な料理法ではありますが、お料理に多大な時間を避けられない都会っこ達にとってコンソメキューブは時間の節約の助けをしてくれる上に、お料理に旨みをもたらしてくれる重宝物。


コンソメキューブだけでなく、リンツチョコレートもイタリア製とスイス製では質が違うと言われていて私のように5分だけの越境をしてスイス製を買うイタリア人がいるようですよ。

こうなったら、クノールのコンソメキューブ海外版の味比べ大会をしてみたい!


特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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