一番苦手だったのは、クロスタータと呼ばれるクッキー生地が土台のジャムのタルト。しかも選りに選ってこのクロスタータと出会う回数が一番多かった、、、つまりクロスタータはイタリアンお菓子の定番。一方、日本ではデザートは別腹と言いながら満腹になった後も頬張っていた記憶があるのに。日本の和菓子の甘さは強烈といえば強烈ですがお茶とよく合い、洋菓子のデリケートな甘さはどの世代にも喜ばれる仕上がりで幾つ食べても飽きが来ません。
おっとっと、クロスタータに私がノックアウトされる前の食事の道のりについても触れておかなくては。イタリアでのスタンダートなメニューは、前菜、第1の料理(パスタとかリゾットとか)、第2の料理(肉料理とか魚料理)と付け合わせの野菜となっているのですが、イタリア人と日本人では胃袋の大きさが違うにちがいない、とイタリアに来た日本人なら誰でも思ったはず。日本人は前菜でお腹いっぱいになってしまう、とは一体どういう事でしょう。しかも大食漢で有名で2、3倍もある体格のアメリカ人とは違ってイタリア人は大振りな体格では無いのに。そう、背の高さは日本人並み。
さてこの苦手なクロスタータは、前菜ですでに満腹気味の私が第1と第2の料理をワインで流し込んで身動きが取れなくなった時に最後の仕上げとして登場し、私の胃袋は重量感抜群のクッキー生地で破裂寸前。それだけでは済まなくて極め付けは、挟んであるジャムのなんと甘いこと。あまりの甘ったるさに目をパチパチし、注いでもらった甘口スパークリングワインを頂いで口の中もパチパチするのですが、すでに脳みそは溶けてしまったようだし舌の感覚ももはやありません。私は夢見心地にさせてくれるようなデザートが好きなのだけど、これではウットリどころか拷問と錯覚しそうな体験。
そこで考えました。イタリア料理もお菓子も何でも世界一と思ってるイタリア人に、よぉし、上品な甘さという新感覚テイストを教えて味覚大改革を起こそう!と私は甘さ控えめのクロスタータ作りに挑戦。ところが、私の甘さ控えめジャムは全くもって存在感ゼロで得体のしれないタルトに仕上がりました。私の降参。
それで私は悟ったのです。あのクッキー生地の質量感に耐えられるのは、最高に甘いジャムとか最高に甘いチョコレートクリームでなくてはならない。それから前菜から始まる美味しいお料理を満喫した後に目が醒めるような、いや逆で、意識不明になるような溶けた状態になるためと言うのか、それとも愛と憎しみが表裏一体と言うか、そんな強烈な味覚体験のクロスタータが最後を締めくくるイタリアの晩餐会の仕上げに相応しいのだと。
それ以来、クロスタータを見直したかもしれない、、、