• 2021.06.22
  • 呑気に暮らす
窃盗の多いイタリア。イタリアでの盗難は芸術的なので、それ故に憎めなくなってしまうとか。私がイタリアに移住する前の頃は空き巣が圧倒的に多かったので、外出時には「これをあげるから室内をかき乱さないください」という意味で幾らかのお札(当時はユーロではなくてリラでした)を空き巣さんの訪問のためにテーブルに置いて出かけるものだった、という話をよく聞いたものでした。考えてもみれば、変な風習というか呑気な時代と言ったらいいのか。


ミラノの私の住まいには地下室があります。そこでビックリさせれたのが私の地下室のドアの鍵で、他人の地下室の鍵も開けられてしまうことがひょんなことから発覚。それもほぼ全部のドアが。きっと他の住人もそれをわかっているに違いないのですが、呑気な気質なのでしょう、騒ぎ立てることも無くそのままそっとしてあるところが面白い。
ところでそんな地下室に行く度に思い出すエピソードが。



30年ほど前に知り合いの日本人がハネムーンでベネツィアに旅行した時の話。日本からの長旅の末に到着した先は、5つ星の素敵なホテルの素敵な宿泊部屋。観光に乗り出してベネツィアの街を満喫した後に「あ〜疲れた!」と宿泊部屋に戻ってきた時に何かが違うのです。部屋の印象が違うのですが、時差ボケや長旅の疲れで異変の原因が直ぐにはわからなかったそうです。部屋の家具の配置が違うという事に気がついた事から何気なく部屋番号を確かめた所、なんとお隣の部屋に入ってしまったことがわかりました。道理で家具の配置が最初に案内された部屋に対してシンメトリーに配置されているわけです。慌てて自分たちの本来の部屋に入ったものの、この鍵で一体いくつの部屋が開けられるのだろうと鍵をマジマジと眺めたとか。




幸いにして私の住まいも、知る人ぞ知る共同キーになっている私の地下室も 盗みに入られたことはないのです。ところで車の盗難はイタリアではよく起きている窃盗の1つです。仕事先で同僚の車がこじ開けられてしまったり、車が盗まれたりという事件が続いた時期がありました。そんな不愉快な事件が続いたある日、仕事を終えた私は車に乗って帰ろうと路上駐車して置いた自分の車のところにきて青ざめました。車が無い。

「とうとう私の車もやられたんだ!」と思い途方に暮れていたところ、同僚のフランチェスコ氏が車で通りかかって「どうかしたの?」と声をかけてきました。私は「車が見当たらない。とうとう盗まれた。今日は私の番、、、」など説明もうまく出来ずにぼやいていると「君の車は何色?」と聞かれ「黒よ」と言うと「黒っぽい車なら見たと思う。元に戻ってごらん。悪いけど急いでいるから失礼するよ」と言うのです。彼が指している場所にパーキングした覚えが無いので、急いでいる彼を引き止めては悪いと思いお礼を言ってお別れしました。その後暫くウロウロした私はパーキングをした場所を突然思い出し自分に呆れながら車に向かいました。

気にかけてくれたフランチェスコ氏には、兎も角車を無事に見つけたことを知らせておこうと思い彼の電話番号を探しました。疲労とお焦りで今日は彼のメルアドしか見つからない。何も知らせないよりかは良いでしょうと思い「フランチェスコ、車が見つかった。ありがとう」と送信しました。

次の日、意外な人物からこんなメッセージを受け取りました「ユリコ、、、ああそうなんですか、、、、車が見つからなかったようですね。見つかってよかったですね。」

ここで気がついたのです。私は、別のフランチェスコに報告のメールを送ってしまっていた。この話をするとイタリア人は「バカンスに出かけてリラックスした方がいいよ」と呑気なアドヴァイスをくれます。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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