私がイタリアに移住したばかりの頃に、友人同士の挨拶に使うチークキスも苦手で、チークキスのために身体の距離がググッと狭まるのも嫌で、屁っ放り腰で挨拶をしていたことを未だに真似されて、友人達にからかわれます。
挨拶のそんなスキンシップが苦手なのは、実の所、今もです。その理由の一つに、お互いの頬同士を軽く合わせただけ挨拶なのに、一体顔のどこに香水をつけてくるのかしら?と疑問に思うほど、その人の香水の匂いが私の頬にこびり付いてしまって、その香りを一日中嗅ぎ続けて過ごす羽目になったりするからです。
それにチークキスは、左頬から始めるのか右頬から始めるのかはっきりしていないので、時々、唇がぶつかりそうになったりもあって、結構、注意しながら慎重に頬を寄せなくてはなりません。どちらの頬から始める、という決まりがないのは、突き出す頬を間違えたせいで唇にチュッとハプニングが起きてしまったらいーなぁという期待も密かにあって、ひょっとしたら楽しんでいるのかしら。
地域によっては、3回もチークキスの挨拶をする習慣があって、いつものように左頬に1回、右頬に1回して私が身を引くと、相手がまた左頬を突き出してくるので、慌てさせられます。流石に4回のチークキスの地域にはまだ出会ったことはありませんので、最高3回なのでしょう。
チークキスの挨拶の他に、友人同士でよく使うのが、ハグ。これも、私は相変わらず苦手。例えば、背の高い人と挨拶のハグをする時なんて、私の口紅などのお化粧がその人の肩部分のシャツについてしまったりするのです。この口紅の痕跡のせいで、同僚にからかわれないかしら?奥さんに咎められないかしら?と心配になってしまいます。
となると、握手にしたら?と言われそう。握手は好きです。が、時々、力強く握手をしてくる人がいて、私の指輪が他の指に食い込んで痛タタッ!と声には出さ無いものの、涙目になりながら無理にニコリとしようとして引き攣った笑顔の挨拶をすることもあり。
ところでそんなイタリアでも、ハグやチークキスを交わさない場所(人々)が存在することを発見しました。その方とは、握手でさえ交わさない、と決まっています。それは、イタリア各地にある社交クラブで、元貴族、又はハイレベルの実業家の集まりの格式高い、厳選されたクラブで起きました。とりわけ北部イタリアの都市トリノにある社交クラブは、イタリアで1番規模の大きい歴史ある重要なクラブで、そこでは写真撮影やビデオ撮りも一切禁止。ハグも、チークキスも、握手も交わされてはいませんでした。
貴族出身という事が起因しているのであれば、跪いて手に接吻をすることだけがもしかしたら許されるのかもしれない、と冗談半分に思いましたが、いずれにせよ私が落ち着きを失くすあの習慣がなくても、不自然に感じない場だったのでした。