私も、ミラノで引越しの経験は多い方で、色々な家を見てきたものです。その内の一件の内見での事。その家は居住中では無かったのですが、その家に1人で暮らしていた年配のご婦人が、具合が悪くなったので検査のために病院に行ったそうなのですが、そのまま戻らない人となってしまいました。きっと検査のための数日間の入院だと思っていたのでしょう。家の中は、彼女が家を出たその当時のままという印象がありました。ご婦人が亡くなってから、それなりに年月は経っているようだったのですが、私には彼女の魂のようなものを家の中に感じられ、それ故に私の家としてのイメージが全く湧かなかったので購入を諦めた物件でした。
そんな経験に近い感覚を覚えたのが、不思議というか変なことに、ポンペイ遺跡での見学。
ポンペイ遺跡は、今から1900年前に起きたヴェスヴィオ火山の噴火で突如姿を消した都市。世界中の考古学者を始め、職業、年齢を問わず万人の興味と関心を集めている遺跡の一つです。
何と言っても保存状態の良さが、当時の日常生活を鮮明に語り、過去の遺物と言うよりもその先端的な都市設備と生活システムが時代の隔たりを感じさせず、つい最近の出来事のように思えてくるので不思議です。
たとえば、区画整理された街並み、地下水道システムや、浴場の温水システム、歩道と車道の区別と車止め、音響システムが考えられた劇場、商店街や居酒屋、娼婦の館とそのオーダーシステムなど、驚きの連続です。
地形面でも非常に恵まれていて、噴火前のその当時は海抜が低かったので、ポンペイは海岸線に接していて港を持つ都市だったことから、商業的にも陸上のみならず海洋面で活発だったのです。その繁栄ぶりは遺跡のありとあらゆる所に見出せ、驚愕に値するものです。
見学できるポンペイ遺跡の敷地は1日でも回りきれないくらい広くて、見応えに溢れているにも関わらず、遺跡の大半は未だに未発掘なので、発掘調査が進むと時々新発見があり、世界を賑わせています。私には、見てもらえること、発掘してもらえるのを待っているかのような何か不思議なエネルギーを感じた場所だったのです。