• 2024.11.13
  • 駅直結のホテル
ナポリを訪れると2回泣かされるという謂れがあります。

1回目はナポリに着いた時に、2回目はナポリを去る時に。

ナポリに到着すると、薄暗い数々の路地は勿論、何か混然、雑然としていて、加えて何もが機能していないことに直面し、困惑させられます。ところが、スルメの様に噛めば噛むほど味わいが増して、いつの間にかそんなナポリにすっかり魅せられていて、去るのが惜しくなり、そのままでも住み着いてしまいたくなる所。

驚きに満ちたナポリ。今回の訪問も例外ではありません。ナポリの飛行場から予約しておいたタクシーに乗り込んだ途端に、ナポリシャワーを浴びせられました。お人好しそうな顔のタクシーの運転手さんと車内に十字架が沢山掛けられた彼の小さなフィアット車。挨拶がわりのごくありきたりな会話をしたのも束の間、彼は前置きも無く切り出しました。

「君達が信じている宗教は何?」

何が始まったのかをしばし分からないでいる沈黙の後、私と日本人の友人は顔を見合わせ「えーと、神道ですけれど、、、、」と気後れしながら返事をすると、その後の30分間の乗車中に、キリスト教を信仰しない私達が神に救われない運命である事について彼はとくと諭しました。

「さー、着いたよ」と彼に言われて、車外に転がり出てから大きく深呼吸。道中、濃い内容の話だったもので、灰色のミラノから青空広がるナポリの包み込んでくれるような気候の中に来たことさえ気が付かないでいたのでした。秋とは思えない眩しいくらいの日差しに目をつぶり、両手を広げて心地よい気温に自分の体を同化させてから、到着先のBed&Breakfastの入り口を見やると「2番ホーム」という看板がありました。

そうだった、そうだった、仕事のオーガナイザーが予約してくれた宿泊所が面白い名前だなぁと出発前に思ったんだった。

建物全体を見やると宿泊所と言うよりか電車の駅のような、、、佇んでいる私の横を避けるかの様にして人々が行き交いを、、、なんと、この駅の2番ホームの真上にあるのでこの宿泊所は「2番ホーム」という名前。



つまり私達は駅で寝る?! 

屋内は前もって写真で見ていた通り、シンプルで清潔な内装。恐らく無人改札が導入された時に業務員室や駅長室が排除され、売りに出されたのでしょう。宿泊所を案内し一通りの説明を終えたオーナーが、コーヒーを一緒に飲みにいきましょうと近くのカフェテリアに誘ってくれたのでついて行くと、まるで私の昔からの友人かのように地元のおじさん達が合流し、まぁなんと賑やかで不思議なコーヒータイム。

日本には駅直結のホテルが多くあって、例えば東京ステーションホテルとかホテルグランヴィア京都とか、おしゃれで素敵。でも、この「2番ホーム」の様に、電車が通ると音が聞こえ振動が感じられる経験は出来ないでしょう。

それでは眠れないじゃないって?? そうかもしれない、でも私はよく眠れましたよ。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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