• 2025.12.09
  • 最も「イタリアらしくない」街
イタリアという国は、いつの時代も「過去」と密接に生きているように思えます。
遺跡の石畳には歴史の記憶が刻まれ、芸術や伝統が人々の日常に溶け込んでいる中、ひときわ異なるリズムを刻む街が、ミラノだと言えます。
この街では、古代ローマの遺跡がガラスの高層ビルの間の陰にひっそりと残っていて、それが存在感の無いような「存在」を生み出しています。逆に、石造りの由緒ある建物の目先に高層ビルが建てられた当初は、そのギャップある風景に抵抗があったものの、私の目が見慣れてきたのか又は自分の考えを改めたのか、いつの間にかその景色がミラノらしくて良いと思うようになりました。


世界中から新しいアイデアや投資が次々と流れ込んでくるミラノは変化に敏感で、成長していく街。だからこそ「イタリアの中で最もイタリアらしくない街」と呼ばれることも。
けれど、それは決して悪い意味ではなくて、未来へと向かうエネルギーの象徴として、むしろ歓迎したいものです。



それでもミラノの評判は決して良くはありません。空気汚染の町としてイタリアでは常にトップを行っていて、犯罪も。なぜならば移民・難民・不法滞在者が集まりやすい都市となっていて、更には移民を取り巻く制度・運用の中に抜け穴があり、制度的課題が指摘されています。それでも、この街には常に動きがあります。問題や矛盾を抱えながらも、ミラノは次の形へと変化していくエネルギーがあるのではないでしょうか。
問題はさておき、近年のミラノの魅力は、整った美術館やブランド街の光景より、今この瞬間にしか体験できないイベント、アートや音楽が交差する夜、あるいは期間限定のポップアップギャラリーが充実していることが、流動的なミラノの姿をよくアピールしていると思います。
歴史を遡ると、ミラノの名の語源はケルト語で「大地の中央」だという事。
ローマ帝国時代には重要な拠点となり、ルネサンス期には交易と文化の中心地として栄えていました。そして今、ブレグジットを経てロンドンから移転してくる金融企業を受け入れながら、再びヨーロッパ経済の要として存在感を高めているところでしょうか。
ミラノは、過去を大切にしながらも、未来を常に意識している街です。古い石造の建物の壁の向こうでは、新しいテクノロジーやデザインの発想が静かに芽吹いていて、芸術とビジネス、職人の技と最先端のアイデアが自然に混じり合って、その調和こそがこの街の魅力です。
華やかなファッションショーやデザイン デモンストレーションの傍ら、朝早くからバールでエスプレッソを飲みながら談笑する職人、昼にはPCを抱えて移動するビジネスマン、夜には音楽やワインを囲んで語り合う若者たちが、今日もミラノを生き生きとさせています。


特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

三上 由里子の記事一覧を見る

おすすめ記事

リポーター

おすすめ記事

PAGE TOP