• 2026.01.09
  • 高級ブランドの不思議な世界
高級ブランド品が、別の惑星の品物のように思えることはありませんか?
日常生活品からかけ離れた特色を備え、ラグジュアリーさを追求した究極の物。それらをライフスタイルに取り込んで生活する人が大勢いることはもちろん承知していますが、時々ふと思うのです。
「もしかして私たち消費者は、密かにマーケティングの社会実験に参加させられているのでは?」
ブランドの重役たちが円卓で「こんなものまで売れたよ!」と笑い合っている光景が私には浮かんできます。
誰しも、必要のない物を“必要そうな物”として買ってしまう経験があるでしょう。それは人間の弱さでもあり、可愛げのある自然な行動とも言えるのではないでしょうか。けれども、その域をはるかに超えた“超弩級の不要品”たちを見つけてしまいました。
たとえば、プラダが手がけた安全ピン。しかもイタリアでは販売されていない所も興味深い点で、アメリカの百貨店サイトには堂々と掲載され、真鍮の本体にコットンの編み込みが施されたシンプルな品なのですが、価格はなんと340〜671ユーロ。どう見ても高級品とは説明できない集合体なのです。今まで何人が購入したのかを知りたいものです。


一方、ルイ・ヴィトンは愛犬家の心理を巧みに突いている商品を出しているそうです。1,800ユーロの犬用フードボウルは、なんと革製で蓋付き。高級レストランで見かける釣り鐘型の蓋“クロッシュ”のようにサービスされて、犬が口をつける前から威厳のある空気が漂う光景を想像します。そんな食事スタイルをしている犬もきっとラグジュアリーな生活をしているという自覚が芽生え、行動も変わってくるのでしょうか。 


さらにスペインから出発してパリに移ったバレンシアガは、値札タグのセット195ユーロを売っていると聞きました。加えて驚愕させられた点は、香り付きのセラミック製で、「タバコ」「シルク」「ミシンオイル」など、一体どんな調香なのか想像が追いつかない香りのブレンドが売りです。返品不可と明記されているそうで、妙に納得しませんか。
フェンディの子ども向けのリスがモデルのチャームも、可愛さの裏に何か納得出来ない疑問が潜んでいます。フォックスファーやシープファーを惜しみなく使用し、ふわふわとした仕上がりはまるで絵本の世界。しかし、850ユーロという値段。一体どんな子供がこのチャームを欲しい!!と地団駄を踏むのかを知りたいです。
そして極めつけは、エルメスの約25,300ユーロもするスマートスピーカーです。高性能な音響システムが搭載されているとはいえ、同等レベルのものはAmazonで数千円から購入可能。にもかかわらず、この桁違いの価格が成立するのはヴァケッタレザーと呼ばれる特別な革を使っているからなのだとか。神話に出てくる金の羊毛で縫い合わせてあるんでしょ?と聞きたくなります。
こうして並べてみると、ラグジュアリーブランドとは、単に物を売る存在ではなくて「欲望そのものをデザインする存在」だと気づかされます。
日常とはかけ離れた物が常識の輪郭を押し広げていく、それが高級ブランドが放つ魔力なのでしょう。
必要かどうかではなく、ただそこに特別さが感じられ私たちはその不合理さに惹かれているのかもしれません。ラグジュアリーとは、不思議な存在です。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

三上 由里子の記事一覧を見る

最新記事

おすすめ記事

リポーター

最新記事

おすすめ記事

PAGE TOP