• 2026.04.09
  • ウーダリシュ
ウーダリシュ(Oodarysh)はキルギスの伝統的な騎馬競技のひとつで、エル・エニッシュ(Er Enish)とも呼ばれます。初めて見る人にはスポーツのように思えるでしょうが、2人の騎手が馬上で組み合い、馬たちが脚を踏ん張る様子を目にした瞬間、これは単なる競技ではなく「動きながら行われる交渉」のようなものだということがわかります。まさに、契約書類が存在しない、リスクの高い駆け引きなのです。
草が円状に踏み固められ、土埃が舞い上がる広大な草原で、私は思いがけずウーダリシュの試合に遭遇しました。華やかな入場の音楽はありません。そこにあるのは、輪を描くようにじりじりと会場を取り囲む観客と馬にまたがった審判、そしてキルギス特有の「刮目せよ」という意味の沈黙ばかりです。公式には、ウーダリシュは騎乗して行うキルギスの伝統的なレスリング(馬上相撲)で、相手を馬上から引きずり落とし、地面に触れさせれば勝ちという、いたってシンプルな競技です。
しかし、この「シンプル」という言葉には落とし穴が潜んでいます。ウーダリシュは単に力が強ければ良いという競技ではなく、様々なスキルが試されます。握力やバランス、的確なタイミングはもちろんのこと、見過ごされがちですが、馬が自らの役割をどれだけ理解しているかが勝敗の鍵を握ります。古来の遊牧民の世界では、「頼れる馬を持たない騎手は部隊を持たない指揮官のようなもの」とされていました。理論上は立派でも、実戦では弱さが露呈します。だからこそ、馬の安定性は騎手の実力と同じくらい重視されているのです。
ウーダリシュの試合は、地面に描かれた直径約30メートルの円の中で行われ、競技として実施される場合には制限時間が設定されます。騎手たちは上半身を自由に動かせる服装をしていることが多いのですが、これは馬で疾走しながら組み合う際、身につけた衣服が妨げとなり得るからです。
観戦していると、混沌としていながらも計算し尽くされた動きが見て取れます。騎手たちは互いに腕を絡め、肩を押し合い、馬たちはまるで役員会議での高度な駆け引きを教え込まれたかのように、華麗に体を旋回させます。一方の騎手が相手のバランスを崩そうと仕掛ければ、相手は体重を移動して組み手を固め、馬の動きをてこのように使って応戦します。観客はというと、ある意味ではこの試合で一番おいしい思いをしている存在かもしれません。誰もが評論家のようになって試合に夢中になります。隣のおじさんは「実証済みの必勝戦略」を語り、ティーンエイジャーたちはまるで国の代表チームの指導者のように大声を張り上げます。後ろのどこかでは、「今まで勝敗予想を外したことなどない」と信じている人が、ひっそりと、しかし自信満々に試合の行方を占っています。
ウーダリシュは大規模な文化イベントなどで開催され、遊牧民の伝統競技の国際大会であるワールド・ノマド・ゲームズ(World Nomad Games)のプログラムのひとつにもなっています。この騎馬競技もまた、博物館の展示に収まることなく受け継がれてきた伝統のひとつですから、それも当然のことと言えるでしょう。
どちらかがついに決定的な一打で相手を馬上から地面へと落とした瞬間、一斉に歓声が上がりますが、すぐに会場は静まり返り、騎手たちに敬意が向けられます。長いスピーチもなく、ただ軽く頷いて体勢を整えるだけです。草原では、今も昔ながらの方法で技量が評価されます。勝者の実力はみんなの前で堂々と称えられ、敗者が言い訳を口にすることもありません。

特派員

  • ダニアール・バクチエフ
  • 職業公務員

はじめまして。ダニアールと申します。公務員です。キルギス共和国に住んでいます。趣味は本を読むことです。また、旅行やいろいろな食べ物を味わうことも好きです。よろしくお願いします。

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