ヒートホールンという地名の語源は「geitenhoorn」、オランダ語で「ヤギの角」を意味します。1170年の高潮で大量に死んだヤギの角を、初期の入植者たちがこの地でたくさん発見したことに由来すると言われています。ヤギの角は村の紋章にもなっています。細くて長い村のメインロードは、徒歩か自転車でしか利用できません。道の脇には水路があって、いくつものかわいらしい小さな橋が、民家の建つ小さな島々を結んでいます。メインロードにはショップやカフェ、レストランがあり、数件のミュージアムやギャラリーも楽しめます。何もかもが至近距離にあるので、一日ですべてを楽に見て回れます。
私のお勧めは「‘t Olde Maat Uus」という農家博物館です。もともとあった古い農園内に1988年にオープンし、地元ヒートホールンの伝統や文化を実演しています。入り口のすぐ隣はおもてなしスペースになっていて、伝統衣装を身につけた地元のお年寄りが実演販売している、カリカリの食感のワッフルの香りが漂ってきます。館内の展示品は伝統的な農園生活に関連するものばかりで、当時の生活の様子をナレーション付きのスライドで紹介しています(残念ながら、オランダ語のみですが)。何より興味深いのは、ヒートホールンの人たちが昔は何をするにもボートを利用していたということです。ヒートホールンの伝統的なボートは「プンテル」と呼ばれています。この長細いボートはパドルではなく長い木の棒を使って漕ぎます(ヒートホールンがベネチアにちょっと似ていると感じるもう一つの理由はこのゴンドラです)。プンテルはヒートホールンのあらゆる家庭になくてはならないものだったようで、水路を使わなければ行けない場所もありました。また、商業の 輸送手段としても大きく貢献しました。博物館には、プンテルで牛乳やチーズを配達する写真が展示されています。都市部で販売する芝土の輸送にも利用されましたし、幅広い違うタイプのボートで牛を運ぶことさえあったようです。プンテルは地元の伝統とも密接に結びついていて、かつては死者を運ぶのにも利用されました。棺の周りに座るのはみな女性とお年寄りで、男性は水路沿いの道を徒歩で進んだようです。この村を以前訪れたときには結婚式が行われていて、新郎新婦が美しく飾られたプンテルに腰かけ、教会に向かっていました。伝統的な輸送手段や商業習慣の多くは移り変わってしまいましたが、水路のある陸上と水上の生活は、今後もヒートホールン文化にとって重要な要素であり続けることでしょう。ヒートホールンで大人気のアクティビティと言えば、間違いなくレンタルボートです。ありがたいことに、プンテル以外にもさまざまなエンジン付きボートを選ぶことができます。村には自然保護区もありますが、複数の水路を備えているのでボートで見に行くことができます。自然保護区とメインロード沿いの主要水路をボートで巡るのにかかる時間は2時間程。のんびりとした静けさにどっぷりと浸れる絶好の行楽地となっています。どこまでも広がる緑の草原、大きな青い空、こじんまりとした水路、アヒルやガチョウ、牛、馬、ヤギ、鳥類など、オランダの典型的な景色を目にすることができます。アムステルダムの日常とはかけ離れた世界が広がっているのです。
最後にご当地グルメを紹介します。一日中歩き回ったり、水の上で過ごしていたら、誰だってお腹が減ります。地元料理は一般的なオランダ料理とそれほど変わりませんが、地元食材を使った料理に目を向けると、地元の味がしっかりと反映されています。長い一日の何よりのごほうびです。写真にあるのはクラブステーキで、地元産のビーフにキノコとタマネギが添えられています。私の一押しメニューです。
オランダの田舎はバラエティーに富んでいて、季節によって人気のエリアも変わります。でも、オランダで1日か2日余分に滞在するチャンスがあったら、歴史のルーツであり、シンプルながら絵画のように美しい文化や景色を体験できる田舎町をぜひ選択肢に加えてみてくださいね。
特派員
- マルタ・ ヒッキー
- 職業教師、イラストレーター
アムステルダムで生まれ育ち、研究のため日本に2年半住んだことがあります。オランダ―日本間の文化的なつながりやコミュニケーションにとても興味があります。その他、自転車に乗ることや、教師やイラストレーターとしての仕事、友達と新しいカフェに行ったりすることを楽しんでいます。2014年にライデン大学を卒業し(アジア/日本研究修士)、現在は日本人向けのオランダ語学習教材を作っています。この学習教材では両国間の文化的な違いも紹介しています。
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