- 2015.07.24
- クリストファー・ストリート・デー
今回は初夏の風物詩、性的マイノリティのプライド・パレードが行われる『クリストファー・ストリート・デー』についてご紹介します。日本ではレインボー・プライド、レインボー・パレードなどの名称が一般的ですが、ドイツでは『クリストファー・ストリート・デー』もしくは頭文字を取って『CSD』と呼ばれています。1969年の6月末、ニューヨークのゲイバーが警察の取締りに抵抗した事件がありました。この事件にちなんで、そのゲイバーが所在した通りの名を取り、6月最終土曜の開催になっています。ニューヨークに少し遅れて、ドイツでも70年代後半にはゲイ解放運動が高まり、79年にベルリンで第一回のCSDが開催されました。このときの参加者は450名程でした。以降、規模が大きくなるにつれ、ナイトクラブなどのスポンサーが付き、大音量のテクノ音楽に派手な衣装の商業的なパレードへと発展してゆきました。90年代後半には主催者の内部でグループが分裂。スポンサーを排除し政治的主張に重きを置いた別のパレードが、クロイツベルク地区で行われるようになりました。それぞれに盛り上がる二つのパレードの違いを一言で説明するなら、CSDメインパレードが体育祭、クロイツベルグCSDは文化祭、と言ったところです。性的マイノリティは、日本の新聞などではLGBTという表記が見られますが、CSDのホームページを見てみるとLGBTI* とされています。『I』は実際にはそれ程稀ではないと言われるインターセクシャル、『*』の印は、そのいずれにも自分のアイデンティティを固定したくない人たちを示しているとのことで、念には念を入れた多様性への気遣いが感じられます。性指向・性アイデンティティの多様性は、国籍・文化の多様性と並んで、ベルリンをベルリンたらしめる大切な要素です。歴史家ロバート・ビーチーによると、現在は通念となっている「放棄不可能な指向に基づいたアイデンティティである」という同性愛の理解は、そもそもはベルリンにおける現象であった、ということです。それにも拘らず、また、他の様々な面においてもヨーロッパを牽引するドイツであるにも拘らず、同性婚の法整備で他国に遅れをとっています。この問題を巡る論争は、敬虔なカトリックであるアイルランドで同性婚が合法化された今年、再燃しています。パレードのプラカードにも同性婚合法化を促すメッセージが散見されました。日本社会でも徐々に啓蒙が進んでおり、東京レインボーパレードの今年の来場者は過去最高の6万人に達したそうです。それでも、ベルリンCSDの70万人と比較すると、まさに桁違いです。ベルリンでは「ゲイのデモ」ではなく「マイノリティ差別に反対する全ての人々のデモ」という感覚が浸透していることを、その人数から伺うことができます。