• 2022.12.09
  • アルデンテ
約半世紀前、マドリードで学生生活を始めた当時は日本から持参したなけなしの外貨を節約する意味と街の探検も兼ねて下町の下宿から在籍していた学校まで毎日片道6kmを徒歩で往復していました。その大学生活での楽しみの一つが学生食堂でのランチタイムです。そこのメニューは月曜日から金曜日まで決まった二皿とデザート付きの日替わり定食です。なかでも特に有難かったのは木曜日に必ず最初の皿として登場するパエージャ・・・とは名ばかりで黄色いご飯に具としてムール貝が2~3個しか入っていない質素な物ながら、日本食が恋しい貧乏学生にとっては貴重なご飯料理、お代わりも出来たので十分に堪能させていただきました。パエージャの日のメインとなる二皿目は目玉焼きというかフライドエッグと決まっていて、こちらはお代わり禁止です。


写真1


写真2

他の日の一皿目にはよくmacarrones con tomateと呼ばれるマカロニのトマトソース合えが登場しました。こちらも具材はチョリッソ・ソーセージの切れ端が散見できるくらいのシンプルさ、アルデンテなどというお題目はガン無視のグニャグニャ状態まで茹で倒したパスタにトマトソースを絡めた代物で、初めて食べた時はその茹で過ぎ加減にちょっとしたカルチャーショックを受けましたが、毎日の徒歩通学で腹ペコになった学生には十分おいしく感じられてこちらもお代わり必至メニューでした。この歳になってもしばしば家で再現して懐かしがっています。写真1,は再現したトマトマカロニです当時よりは堅めかな。スペインではマカロニと言うとほとんどが筒状のパスタの両端を斜めに切り落としたペンネで、それも筋の入ったイタリアでいうペンネ・リガーテpenne rigate が出てきます。写真2ではmacarrón al huevo 卵マカロニと表示してある筋入りペンネ。
食に関してはどちらかというと保守的だったスペインでも次第に美食志向が高まり、本格的イタリア料理店も増えてくるにつれ、巷ではパスタはアルデンテでなければ、とも言われ始めてきました。とはいえ未だに多くのスペイン人に好まれているは、柔らか麺だと思います。この好みは多分英国人も一緒で太陽海岸やマジョルカ島、カナリア諸島など彼らに人気のリゾート地の旅行者向けレストランで頂くパスタもほとんど柔らかく仕上げています。とは言え、やり過ぎの例もありまして一度英国製と思われるトマトスパゲッティ缶詰を、怖いもの見たさに試したことがありました。それはドロッとしたトマトジュースに浸った糊化寸前の白っぽい麺でなんとも不気味な食感でしたので最初の一口でお手上げでした。

ともあれ食の好みは至極個人的な事柄なので、例えばうどんはフニャフニャが好きだけどラーメンはバリ堅派の人もいらっしゃるでしょう。以前スペイン人グループに同行して日本旅行をした際にホテルのステーキ・コーナーで食べた銘柄牛の鉄板焼きの柔らかさに皆感心していました。しかし牛肉はある程度の硬さがあり噛みしめながら味わう美味しさの方が好みだとのご意見もいただきました。 食レポの決まり文句である、柔らか~い、癖がな~い、ジューシー! 等の誉め言葉も人によっては同じ食べ物を、歯ごたえがない、特徴がない、ベチョベチョ、とコメントするかもしれません。

本場とか本格派がもてはやされ、本格パスタはアルデンテに限る、とご宣託されても召し上がる人が本当に美味しいと感じられる事が大切なので、麺の硬さも各個人の好みの問題だと思います。作り方も然りで、本場ローマでは多分絶対に使用しないであろう、生クリームとオランダのゴーダチーズを使った本格カルボナーラ?もあながち邪道と切り捨てられないのではないでしょうか。サーモン握りやツナマヨ軍艦が寿司桶に紛れ込んでいても江戸前寿司と称して違和感を感じないご時世ですから。

ところでイタリアの皆様は東西南北、老若男女を問わずパスタの茹でかたはアルデンテに限るというご意見の方が大多数なのでしょうかね?ご教示頂ければ幸いです。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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