イタリア人のサッカーに注ぐ情熱は、既に世の中に知られているかと思いますが、先日の最終戦の日は、私はミラノ郊外で仕事でした。車でミラノへ戻る道中、ラジオの生中継を聞き入っている同僚達の真剣な表情に、思わず会話をするのもはばかられました。実際、仕事に関する質問をしたのですが全くもって聞く耳持たず、、、再度に渡って尋ねたにもかかわらず。イタリアに来たばかりの頃に、「今日はサッカーのチャンピオンズリーグがあるから、仕事を早く切り上げてもらえるさ」というコメントを聞いてビックリしつつ、へー!サッカーの試合があると帰宅が早まるなんてラッキー、と何度喜んだことか。私が働きに行っていたオーケストラでも、試合があると団員達はソワソワして落ち着きがなくて心ここにあらずで、観察していて可笑しかったです。サッカーに全く興味が無かった私も、イタリア人の会話についていきたいばかりに、その当時はテレビ中継の試合を無理して見ましたイタリアのチームがゴールを決める度に、近所の若者達がわめき叫んだり、走行中の車がクラクションを鳴らしたり、爆竹が鳴ったり、南アフリカから来たヴヴゼラいうラッパの間の抜けたような音がする楽器の騒音、とイタリア人がゴールの度に大騒ぎすることに最初の頃は、新鮮な驚きを覚えつつ困惑していたものですが、今ではすっかり慣れっこになりました。ただしサッカーフィーバーに関して、一度だけ冷や汗をかいたことがありました。それはイタリアではなくて、ブラジルのサンパウロに演奏旅行に行ったときのことです。コンサートが無いフリーの日を利用して、私はサンパウロから400キロ離れた町クリチバに住んでいる、昔ミラノに住んでいたブラジル人の友達に会いに行くことにしました。新幹線の国で育った私なので感覚が違っていて、ローカルな電車を乗り継いだらなんとかクリチバに辿り着けるんだろう、と呑気なことを考えていたのですが、「ユリコ!電車なんて無いの。飛行機よ」とその友人に言われて面食らってしまいました。
そして、なんとか無事にクリチバに辿り着き友達に会えたのですが、会った途端に彼女が「帰りの飛行機は何時だっけ?あなたを不安におとしいれるようなことはしたくないのだけれど、一つ言っておきたいことがあるの。今夜、ブラジルとアルゼンチンのサッカーの試合がサンパウロで行われるのよ。試合の終了時間にあなたのサンパウロへの帰省が丁度あたりそうなのよね。試合終了前にホテルに到着することを強く忠告するわ」と言いました。そんなー!地元の人のように器用に身動きできるわけないよ!
クリチバでの観光を満喫の後(素晴らしい経験でしたよ!)、日帰りでまた飛行機に乗ってサンパウロへ。道中、色々ハプニングがあったのですが話が脱線するので省略。オーケストラの指揮者と奥様が親切にもサンパウロの飛行場まで私を迎えに来てくれました。いつもフレンドリーでおおらかな彼らが、気のせいか焦っているような、、、。そして道中「試合はまだ終了していないけれど、もう勝負は決まったも同然だから、急がなくては」とご夫妻が言うのです。確かに市内に入ると騒音が高まってきていて、道ばたに溢れる人も増えてきていて、町中が興奮している様子で、ただごとではない雰囲気を私も察しました。ご夫妻が私をホテルに送り届けてくださったその瞬間に試合は終了し、それまでの騒音は騒音とは呼べないくらいの大騒音に変わり、その規模に驚かされました。友人がひどく心配をしていた訳がやっとわかりました。ご夫妻がわざわざ迎えに来てくださったのも、そして騒動に巻き込まれないように私をホテルに届けるべく車を飛ばしたこと、いつになく緊張な面持ちのご夫妻など、全てがやっと飲み込めたのです。先日のチャンピオンズリーグは、トリノの広場に設置された巨大スクリーンでも中継で放映されました。本来ならば試合終了後に広場の観衆は「あーあ、イタリアが負けちゃったね」と言いながらジェラートを食べ歩きながら広場から散っていったであろうに、その日はとんでもない惨事が起きました。それで思うのです。恋人、家族、友人そして知らない他人とでさえ、楽しい事、興味のある事を不安や心配なく分かち合えることは素晴らしいことで、そうあるべきだと。そして私もミラノのサッカースタジアムにサッカー観戦にいずれ行ってみたいと。