• 2017.09.07
  • 趣味と仕事
お仕事をなされている皆さんは、どういう経過でその職業を選ばれたのでしょう。

私は、音楽好き一家の中で生まれて幼少から楽器に触れて育ってきた中、 特別に音楽に才能があったわけでもなくて、音楽家=芸術家って何となく素敵に思えていて、何となく音楽家の道に進みました。そのせいなのか、趣味と職業の区別があまりついていない人生を歩んでいるように思います。

なぜかと言いますと、同僚や知人を見渡すと大抵趣味を持っていて休日は趣味に走るのです。微笑ましかった例の一つが、ミラノのスカラ座の団員さんが、1ヶ月間のツアーで外国に出ていた時、寂しくならないようにと大好きなマウンテンバイクの雑誌まで持って行ったと照れながら言うのです。

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大好きなガールフレンドの顔写真を見るかのように、マウンテンバイクの写真に見入っている姿を想像すると笑いがこみ上げてしまいます。マウンテンバイクの雑誌だけでは済まない人は、ツアー先でもライダー(日本ではチャリダー、と言うのですってネ!)をしてマウンテンバイクを漕ぎに出かけるそうで、本当に大した情熱です。その裏返しが、実は仕事が辛いと思っていることが浮き彫りになりました、、、

イタリアで私が参加出演しているテレビ番組のステージマネージャーさんのアンドレア(デザイナー名、Old Randa)は、副業を持っていることをひょんなことから知りました。革靴に色をつけるデザインをしています。アルコールを含んだ顔料で色をつけてコーティングを施すそうです。彼が生まれ育ったVigevanoはミラノから約50キロくらいの小さな町なのですが、町の中心にある広場が美しいことから名前はよく知られています。

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おそらく職人さんが多く住んでいた町なのだろうと思います。事実、昔から靴の生産が盛んだった町だそうで、このアンドレアも、彼のご両親、祖先代々が靴職人の他に様々な分野の職人さんだったので、幼少の頃から職人の道具、匂い、音などに親しみ慣れて育ったわけです。きっと彼も最初は周りにあった道具を何気なく手に取って趣味で始めたにちがいありません。

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なめし革で靴が作られた後、まだ生まれたての生成り色の靴に彼は色を塗っていきます。時には10時間休みもせずに塗り込むそうです。彼がデザインをして情熱を込めて塗った靴は、概して日本人男性に気に入られているそうですよ。色使いやタッチが独特でイタリアらしいセンスが出ているからでしょうか。お洒落に気を使うダンディーな日本人男性にピッタリのファッショナブルな靴である上に、100%手作りで、しかも世界でたった一つしかない靴という個性さが溢れる点も魅力なのでしょう。

ポラロイド写真のようにその貴重な一瞬を留めることによって生み出す凝縮された価値を僕のデザインシューズに込めて仕上げるのだよ、とアンドレアは話してくれました。

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2016年に靴の博物館がこのVigevanoの町に設立されました。彼のデザイン、彼の情熱が、この町で育まれて更には世界に発信されることでしょう。楽しみです。



特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

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