• 2020.03.24
  • カストラート
先日、イタリア人メゾソプラノ歌手チェチーリア バルトリの最新アルバムの紹介記事を読んでいて、好奇心に導かれて色々検索して読んでいるうちに辿り着いたのが、なんとカストラートの世界。

と言うのは、男性とも女性とも区別がつかない人物の写真にギョッとしてなんだろう??

と思って読み始めたのが、300年前に実在したイタリア人去勢歌手に焦点を当てて作った彼女の最新アルバムについての記事だったと言うわけです。

そう、アルバムのカバーには、つけ髭の半裸の彼女の男装写真。


18世紀のイタリアでは、カストラートたちが花形スターとして大活躍していたそう。去勢が禁じられた今となってはカストラートの歌声を聴くことは不可能で、 レコーディングのない時代の話なので、カウンターテナーと呼ばれる高音域を歌える男性歌手の歌声から想像するしかないのですが、カストラートの美声に女性客が失神したそうですから、私もライブで失神はともかく、その感動を体験してみたかったものです。

「去勢」と聞くと、不気味な世界にしか思えず知識を掘り下げるのも憚られるのですが、高額収入だったことから察するには、割と普通になされた選択と頻繁に行われた手術に違いなくて、私が思うほど異常なことでは無かったようなのです。

それを裏付ける一つとして、「少年の去勢を致します」と言う看板を下げたお店が出ていたとか!

スターになってもらおうと両親に去勢された少年たち。ところが誰もがカストラートとして歌手になれるわけが無くて、歌に才能があるかもわからないうちに去勢された少年達が数多く生まれた時代でもあったのでした。

なんと気の毒なこと。

桁外れの収入を見込んで息子の去勢をしたご両親。息子に歌の才能が無いことが後々判明した折には叱責や罵り、無知で薄情な親も続出した時代であったようです。
それまでは好色的でふしだらな行為をした男性に罰として去勢を行っていた教会は、その頃から見捨てられた去勢少年たちや売れなかった、又は引退したカストラートたちに司祭になる事を認めることによって、救いの手を差し伸べて去勢に対する姿勢も変わっていったのでした。


ところで、高音域が歌えると言うことでボーイソプラノが今日でも存在し、その歴史はカストラートよりも長いのですが、その当時流行ったオペラには声量と役を演じるための演技力が未熟なのが問題でした。加えて声代わりが起きると他のボーイソプラノ探しをしなくてはならない問題から、カストラートの価値は上がっていったようです。
更には、当時の教会では女性は歌うことは許されていなかった背景があることもカストラートの存在に大きな影響を与えたのでしょう。

さて、今、世界でトップと言われているカウンターテナーの一人、ヨッヘン コヴァルスキ氏は国際的な歌手なのですが、イタリアは彼の声を聴きたがらないのだそう。

カストラート全盛期時代にあった数々の悲劇が祟っているのかしら??

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

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