• 2025.05.27
  • トリノ再発見
高速列車に乗れば、ミラノからわずか1時間で着く産業都市・トリノ。なので、トリノはミラネーゼにとって身近な存在ですが、それゆえに、互いに強い対抗意識も抱いています。
前回トリノの神秘にまつわる不思議な部分について書きましたが、今回もトリノの隠れた魅力について触れたいと思います。
トリノを観光する人は、まず国立映画博物館やエジプト博物館に行くでしょう。国立博物館は、モーレ・アントネッリアーナと呼ばれている象徴的な建物内にあり、上階へと登る途中に館内を見下ろせる構造も圧巻ですが、最上階のトリノの街を一望できる展望台も欠かせない見所の一つ。 この博物館は別名、映画博物館と呼ばれていて映画ファンには欠かせない映画の歴史が詰まっていて、体験型展示のスタイルが人気です。

一方、エジプト博物館。エジプト国外では世界最大級のコレクションを誇るという世にも重要な博物館なのです。けれども、なぜトリノにエジプト博物館?
いい質問です。
トリノを支配していたサヴォイア王家は、フランスやイギリスと張り合って、自国の威信を高めるために「知の象徴」として博物館を作ることにしたのです。当時、オリエンタリズムが流行していたことも影響し、加えてトリノの町は神秘を呼び寄せるパワースポットでもあるので、古代エジプトの精神や神秘的な部分とマッチングしやすかったのでしょう。トリノの存在感を高めるためにも格好の素材だったので、古代エジプトの美術品を、国の威信をかけて全力で収集したのです。それ故に、エジプトに次ぐ豊富なコレクションとなったわけです。

ところで、これらの有名どころを巡る観光はトリノで欠かせないのですが、ちょっとマイナーな博物館で観光客に乱されずに優雅な美術鑑賞を楽しめる体験をしたので、そんな「隠れ家的」な美術館について紹介しましょう。

その一つ目が、東洋美術館。トリノの旧市街にある18世紀の貴族の館を改修した建物で、イタリアン・テイストがよく表現された面白い展示方法で披露していると思います。


二つ目は、こちらもトリノ市中心部に位置する、アッコルシ&オメット美術館。こちらの歴史的な建物は修道院の一部だった後、アンティーク商のアッコルシがコレクションを公開しながら、少しずつこの建物を買い取っていき、最後には建物全体を手に入れました。


見どころは、世界で最も美しい家具と呼ばれるキャビネットが展示されている他に、17、18世紀に流行したシノワズリのコレクション、それから、何よりも面白いのがヴェネツィア共和国の元首の選挙に用いられたという投票箱。一番驚かされたのが、べっ甲で作られたお盆。照明のツイッチを入れた途端、お盆の背後からライトアップされたことによって現れた悪魔的な模様は、稲妻に打たれたような衝撃を受けました。書斎には、来客に応対するかどうかを決めるために、客の品定め用の覗き窓もあったとか。



保守的で節度や思索を重んじ、こだわりが強いトリネーゼの気質が、ここの家具美術館に詰まっているのです。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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