それでも最近は、電話で「話す」よりも、事件やトラブルを避けるためにメッセージでやり取りする人が増えています。ナビ、天気、健康管理、辞書、書類、支払いまでこなしてくれるスマホは、今や日常に欠かせない存在。だけど、あまりに便利すぎて、逆に息が詰まることもあるようです。
「できるならスマホを家に置いて、無人島で少し休みたい」——。そんな願望をささやく同僚たちの声も、最近よく耳にします。
無人島とまではいきませんが、世俗との連絡を一切断って隔離される場があります。
それが、新しいローマ法王を選ぶ選挙「コンクラーヴェ」です。世界中の枢機卿たちがバチカンに集まり、投票の数日間をスマホもパソコンもない生活で過ごします。

正式な招集は、今でも暗号化されたメールやラテン語の公式文書によって行われるという徹底ぶり。今回(2025年)の選出には、133人の枢機卿が召集されました。
なかでも最も遠くからやって来たのは、ニュージーランド・ウェリントンの枢機卿。
複数の乗り継ぎを要し、ローマまでの移動に約35時間もかかったそうです。
世界中から“選ばれた人たち”が集まるという点では、まるで宗教版オリンピックのようですね。
「コンクラーヴェ(Con Clave)」とは、ラテン語で「鍵をかける」という意味。
まさに、枢機卿たちは外部と完全に遮断された空間で、投票と議論を行います。
もちろんスマホやPCはすべて預けることになります。
投票はすべて紙とペン。最終的には、焼却処理された投票用紙の煙で結果が発表されるのです。
ご存じでしたか? 教皇選出の結果は、煙の色で発表されるのです。
決まらなかった場合は黒(fumata nera)、新教皇が選ばれた時は白(fumata bianca)の煙が、システィーナ礼拝堂の煙突から立ち上ります。
この煙、かつては「灰色?白?どっち!?」と混乱を招いたこともあり、今では化学薬品で明確な色に調整しているそうです。
イタリアでは、まるでサッカー中継のように、煙突にズームしたライブカメラが注目を集めます。「今回もグレーかもね」なんて冗談を飛ばしながら、誰もがその瞬間を固唾を飲んで見守るのです。

今回のコンクラーヴェは比較的スムーズで、2日目に新教皇が決まりましたが、歴史をさかのぼるととんでもない逸話も。
なんと、後継者が3年間も決まらなかった時代がありました。
しびれを切らしたローマ市民が枢機卿たちを閉じ込めたまま屋根を取り外したり、食事制限をかけたりしてプレッシャーをかけたという有名な事件も!
もしかすると、枢機卿たちはリゾート気分で会議を長引かせていた……なんて噂もありますが、真相は定かではありません。
厳かな宗教儀式でありながら、この選挙はローマという都市と市民の暮らしに深く根付いた行事でもあります。
ライブ中継で煙を見守り、決定の瞬間には歓声があがる。
古くて新しい伝統が、今もバチカンの中心で脈打っているのです。