このたびの火災による心痛と起こり得る危険から逃れるため、しばらくシドニーを離れる必要があると思った私は、親しい友人のいるタスマニアで何日か過ごしてきました。
タスマニアの名前の由来となったのは、17世紀にこの島を最初に発見したオランダの海洋探検家、アベル・タスマンです。しかし、島の周囲を航海した結果、それが正真正銘の島であると証明されたのは、18世紀に入ってからのことでした。
タスマニアデビルとフクロオオカミ(ハイエナに似た肉食性の有袋類。すでに絶滅)という、2種類のユニークな動物の島として世界的に有名なタスマニア。当地のシンボル的な存在となった野生のタスマニアデビルを見るため、年に数百万という人々がこの島を訪れています。
しかし私に言わせれば、タスマニアの魅力はそれがすべてではありません。私の心を捉えて放さないのは、ここに広がる手つかずのままの自然と、その自然を損なうことなく暮らそうとしている人々の姿です。
人と自然が互いに尊重し合って共存する世界の最高の見本、それがタスマニアであると、あえて断言したいほどです。
自然の公園、楽園のようなビーチ、絶景を望む岬が大部分を占めるタスマニア。そこにあるのは、各種の農園がもたらす色とりどりの景色と、言葉を失うほどにどこまでも広く開けた空間です。
何でも簡単に手に入るシドニーの便利さに慣れた私にとって、ブッシュ(この地で「密林」を意味する言葉)と野生動物に囲まれながら、舗装されていない砂利道を進むしかない状況というのは、言ってみれば虚空に向かって飛び込むようなもの。それはもう特別な体験になりました。
タスマニア島は実際に、オーストラリアの重要な天然資源です。ここに来れば、耕作や生産、当地への愛情に関するすべてを知り、密接に触れ合う機会が持てるでしょう。大半が有機栽培であるタスマニア産の多くの果物や野菜は、シドニーをはじめとする豪州の大都市で売られています。
果物の一大生産地である南部と農園の多さで知られる北部、その間には無数のワイナリーが存在するタスマニアは、まさにグルメ天国。東部の沿岸地方では地元特産のおいしいものを味わいながら、手工芸から料理、農産物の栽培など幅広い技術を学ぶこともできます。
タスマニアを南から順に見ていくと、島の主要な港がある首都ホバートが目に入ります。ショップやバーはもちろん、ミュージアム・オブ・オールド&ニュー・アート(通称MONA)といった美術館や博物館など観光名所が数多く集まるホバートは、影響力の大きな若い世代の外国人と地元民がもたらす現代性がスパイスのように効いた、古き良き都市の魅力に満ちています。
ホバートから2時間半ほど北に移動したあたりにあるのが、さらに今っぽくて刺激的な大都市のロンセストン。クラブやグルメ、娯楽も充実しています(私が滞在したのもココ)。
この2都市の間には植民地時代を偲ばせるビーチやスポットが多いので、それらの歴史的名所を巡れば、旅がもっと楽しくなるはず。
船でも飛行機でもアクセスが良いタスマニア。シドニー、ブリスベン、メルボルン発の航空便が豊富です。
オーストラリア本土全域と同じく、タスマニアにもヘビなどの危険な動物がいますから、ハイキングや人里離れた場所に行く際は、必ず長靴と長ズボンを着用しましょう。タスマニアの森林は、カモノハシの生息地としても有名です。大人しく静かにしていれば、その目で見るという幸運に恵まれるかもしれません。ただそれは、残念ながら非常にレアなできごとです。
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