ブーメランは特殊な形状により、投げると元の場所に戻ってくる物体です。伝統的なブーメランは木製ですが、それ以外にもプラスチックからボール紙、カーボンファイバー(炭素繊維)、アルミニウム、それこそ紙に至るまで、あらゆるものがブーメランづくりに使えることも知りました。
実にさまざまな形のブーメランがありますが、軸を中心に回転するように投げないと元の場所に戻ってきてくれません。ブーメランを空中に持ち上げる揚力(上向きの力)は羽根の形から生まれます。飛行機の翼に似た輪郭を持つ羽根は、回転して飛んでいるとき空気を「切る」ように進み、そこに揚力が発生します。
ブーメランは一定の速度で回転します。軸を中心に回転しながら前方に進む(飛んでいる)とき、ブーメランの進行方向に回転している羽根には、同じ瞬間に逆方向に回転している羽根に対してよりも大きな力が作用しているからです。
何年か前、ブーメランづくりのワークショップで多くのことを教わりました。
ブーメランの羽根は何枚でもいいというのも、そこで習ったことです。また、羽根の形がそれぞれ違っても構わないので、ブーメラン全体の形が対称でないといけないというのは本当ではないそうです。V字やW字型、3枚羽根やヘリコプターのように羽根が分かれているもの、カンガルーやカメや魚の形をしたものなど、ブーメランの形は本当にさまざまです。
現在、ブーメランを使ったスポーツが広く行われており、アキュラシーと呼ばれるリターンの正確さ、投げてからキャッチするまでのブーメランの滞空時間や飛行距離、所定の時間内のキャッチ回数などを判定する国際大会も開催されています。
ところで、ブーメランと一般的に呼ばれるすべての古代の道具が投げ手のところまで戻ってきていたわけではありません。オーストラリアのアボリジニ族が狩猟や戦闘に使っていたブーメランは投げ手の元に戻るものではなく、彼らの言語で「カイリー」という名前が付けられていました。
戻ってくるタイプのブーメランが狩りや戦争に使われることはありませんでしたが、弓や矢などの狩猟道具の登場によってカイリーの出番もなくなりました。
1770年の入植時、アボリジニ族の人たちが持っているのを見たキャプテン・クックが、記録の上ではブーメランに最初に出会った人物であると考えられています。
現在ではどこでも売っているブーメランですが、質の良いものはわずかで、アート作品として売られているアボリジニ族の手づくりのブーメランが最高とされます。アボリジニ文明ではアートは欠くべからざる存在。一般的にそのアートは、記念すべきエピソードや特別な場所に関係しています。
幾何学模様を描いた自然主義的な題材が一般的で、儀式的意味の強い彫像やトーテムポールなどはもちろんのこと、床や岩、樹皮に描いた絵画などのフィギュラティヴ・アート(形象芸術)として目にすることが多いでしょう。石のほかにも樹皮や砂、皮膚といった安定しにくいものに表現されていたアボリジニ絵画が、今は観光客向けに売られているブーメランの装飾となっているというわけです。
絵を描くことと歌を歌うことは、かつてのアボリジニ族にとっては先祖から伝わる遺産や文化を記憶に留める唯一の手段でしたが、絵画の中には成人儀式のために使われたものもあり、そしてこのような描画の伝統が生まれたのです。
ブーメランの装飾を含め、点描画法はアボリジニ族の絵で最も多く使われるテクニック。混ざり合わず一つ一つ独立したごく細かいドットの連続からでできています。洞窟壁画や儀式の集まりで使われる(使われた)アボリジニ族の地の岩床にも、この技法を見ることができます。
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