大牧場といえば通常はアメリカを連想しますが、世界最大の牛の牧場は、実は南オーストラリア州にあるアンナ・クリーク・ステーションなんです。なんでも面積がベルギーの国と同じくらいあるらしく、敷地の端から端まで移動するには飛行機が要るそうです。
ヨーロッパから初めてオーストラリアに来て、ビザの期間延長のために数ヶ月ほど農場で働く人はたくさんいます。もしくは、コロナ禍以前はそうでした。牛の牧場を希望する人も多いですが、オーストラリアの牧場での仕事は果物の収穫のように単純なものではなく、入念な下調べと高い意欲や経験などが必要です。
牧場での仕事で求人が多いのは、料理人や庭師、それからベビーシッターの業務。大人数が働く大牧場を円滑に稼働させるためにとても重要なものばかりです。
大牧場で数ヶ月働いたことがある友人の話では、牧場の仕事はさまざまで、馬やバイクに乗っての家畜集め、焼き印を押すブランディング、ワクチン接種、搾乳、柵の設置や修理、建物の保守点検、木の伐採、家畜が汚した場所の掃除など、多岐にわたることもあるそうです。
友人は敷地内にいる3匹のオーストラリアン・シェパードの世話も担当していました。姿が美しく、群れの扱いに長けた犬種だそうです。
料理や洗濯、菜園での作業、子どもの世話といった家まわりの用も多いとか。
柔軟性や適応する姿勢が求められる仕事です。
おそらく何よりも重要なのは、人とうまくやっていけることです。誰かと共同で作業したり、お互いに頼ったり頼られたりしながらチームで働いたりするからです。
部屋と食事は支給されますが、その内容はごく質素なもの。食事のメインはもちろん肉、それから大量の豆、また、新鮮な野菜や果物、そして水(!)も出してくれます。
私と同じ「アルベルト」という名のその友人によると、何日も野宿して野外の焚火のそばで寝袋に入って眠ることもあれば、悪天候のもとで週に7日、つまり休みなしに夜明けから日暮れまで働き詰めということもよくあるそうです。
牛の大牧場での仕事は事故の確率が高く、中には死に至るケースもあるほどで、オーストラリアで最も危険な業務であると公的にも言われています。
また、この国は、人を噛む危険性のある毒グモや毒ヘビの数が多いことも考慮しておく必要があるでしょう。最寄りの病院でさえ何キロも先にあることが珍しくありません。
牧場には備え付けの救急箱や抗毒素血清もありますが、動物ごとに血清も異なり、それぞれに固有のものが必要になる場合もありますから、やはり病院で治療を受けることが肝心です。
わが友アルベルトは、牧場での夜はいつも特別な時間だったと思い出を語ってくれました。
カウボーイは夜明けとともに起床するため早寝が基本。多くの従業員は早い時間に夕食を済ませます。そのため、食事の前後には皆がポーチに集まって、太陽が沈むのを眺めていたそうです。
冷たいビールを片手にロッキングチェアに揺られながら、次の日の仕事の計画を立てたひとときも懐かしいのだとか。
インタビューの終わりに、友人はこんなことを言いました。「牛牧場での生活は自分にとって大きな夢の一つだったから、そこで暮らしている間はまさに夢心地だった。長年の夢を実現できたときに感じる幸せは、何にも代えがたいよ」