かなり前から行きたいと思っていた場所の一つでしたが、こんな憂鬱な時期なので決行は長らく先延ばしにしていました。
ハイゲート墓地はイギリスで最も有名な墓地で、ロンドン北部のハイゲート地区に位置しています。
この墓地の歴史は19世紀初めまでさかのぼります。入口の看板に簡単な説明が書かれており、それによれば、純然たるゴシック様式であるためにビクトリア朝時代に造られた途端に貴族の家々がこぞってこの地に埋蔵されることを望んだのだそうです。
墓地の最も新しい部分はごく普通の墓地のようですが、西区画には伝説と謎に包まれた興味深い場所があります。
この墓地にはカール・マルクスも安らかに眠っており、有名な胸像を掲げた墓碑が東区画の入口付近に建てられています。
ハイゲート墓地は怪しげな幽霊が出没することで有名で、どうやら長年にわたって怖い出来事が実際に起きているらしいことでもよく知られています。
ハイゲート墓地の西区画に入るには、ガイドツアーに申し込むのが唯一の方法。スウェインレーン沿いにある、墓地内の至宝にふさわしい荘厳な玄関を構えた正面入口の門が参加者を待っています。
入口のゲートハウスの左右にはチャペルが隣接しています。当時、左側のチャペルは非イギリス国教徒向けのレセプションルームとして使用されましたが、現在は墓地の整備や修復の作業を行う慈善団体Friends of Highgate Cemetery Trustの本部が置かれています。右側のチャペルは1970年代に俗用に転じ、現在は展覧会が時折開催されています。
次にビクトリア朝の慣習に従い馬車と参列者のための大玄関として設けられたコロネード(柱廊)の広場に出ます。今は団体観光客がガイドツアーに参加する際の集合ポイントになっています。
東区画は西区画のあとに造成されました。東区画に埋葬する棺は貨物用のリフトでスウェインレーンを横切るトンネルを通り、現在はチケット売り場と案内所の建物がある場所まで運ばれていたそうです。ガイドツアーが企画したルートは道が明確に決められており、他の小径は安全ではないという理由からルート以外の場所は進入禁止になっています。
広大な野外博物館ともいうべきこの墓地については、これまでもさまざまな取り組みがなされてきましたが、やらねばならないことがまだまだ山積しています。
この墓地が、その昔造成された庭園の状態まで戻るかどうかは誰にもわかりません。当時の流行では、こういった墓地は出来るだけ憩いの庭のように造ることが求められていました。故人を悼む人たちだけでなく、ほんの数時間の休息を求める人たちにとっても、散歩やピクニックをして自由なひとときを楽しめるささやかな場所がたくさんある安全な空間が望まれ、冥福を祈るという意味でも、故人たちが眠るそばであるならなお喜ばしいと考えられていました。
今や形も大きさもさまざまな墓石が無数に増え、そうした憩いを楽しむ空間が減ってしまったのは確かです。場所によっては植物がうっそうと茂っているために、立派なお墓とその装飾として施された、折れた柱や逆向きの松明、エンジェルや骨壺などしか見えないところもあります。
秩序と平安を取り戻せた道の両脇を除いて、ハイゲート墓地は今や非常に不吉な場所という評判が立っています。
これは、幽霊や吸血鬼の話もさることながら、心なき破壊者たちが墓石の彫刻の文化財を大量に傷つけたことが原因です。
メインのルート沿いには印象的なお墓が数々並んでいます。ガイドの人が真っ先に指さしたのはイングランド最大の廟の一つで、大きな島のような形になっていました。スペイン独立戦争で名声を得た将軍が眠っているとかで、この形に建てられたのは偶然というわけではなさそうです。
荘厳な趣のハイゲート墓地入口
墓石の写真は失礼にあたると思うので、入口の写真だけ掲載します