• 2024.01.16
  • 愛と紅茶とカレー
英国ではあらゆる種類のエスニック料理の店が楽しめ、中でもインド料理が特に人気です。
インド料理店やカレーハウス、インド料理のテイクアウト専門店が広く普及しており、家族や友人とのカジュアルな夕食にインド料理を注文するのは、英国人にとってごく普通のことなのです。

これほどまでにインド料理が英国に浸透した歴史は、ビクトリア女王から始まっています。女王は植民地の料理であったカレーを英国の一般的な料理へと変身させた立役者なのです。
女王が個人的にカレーを気に入っていたからか、あるいは植民地政策を進める上での手立てであったのか、いずれにしても、当時の祝宴のメニューにはインド料理は欠かせないものとされ、必ず1品は含められることになっていました。
第二次世界大戦後、バングラデシュから大量の移民が流入して、多くのインド料理店が出現しました。店を経営しているのは当時も今もインド出身ではない人たちがほとんどですが、だからといって作られるカレーの味が損なわれたりはしません。
インド料理は英国の習慣にかなり浸透して、国民食と言えるほどになりました。けれども、一般的な「アングロ・インド料理」(訳註:英国領インド帝国の時代に発展した英国料理とインド料理が融合した料理)の多くは、インドには存在しないものです。
言語的な観点から見ても、さまざまなスパイスを調合しインド料理のベースとなっている「カレー」という言葉は、英国の英語では「インド料理」の代名詞になっています。
英国で一番人気のあるインド料理は、コルマ(訳註:ナッツ類やヨーグルトなどを加えたカレーソース)、ビンダルー(訳註:肉または魚貝類を酢や香辛料で漬け込み煮込んだカレー料理)、チキンティッカ(訳註:香辛料やヨーグルトに鶏肉を漬け込み、タンドールで焼いたもの)を、それぞれ英国風にアレンジしたものです。チキンティッカはインド料理の一品とは全くの別物である上に、グレイビーと一緒に肉料理を楽しみたいという英国人の要望を満たすために、英国料理とインド料理を融合させた、英国の多文化主義を象徴する料理だと謳われていました。
英国のカレーも、まさにさまざまな地域の料理が融合した典型的な一例で、南インドの代表的な料理であるコルマとパキスタン料理が同じ食卓に並び、北インド料理のナンが添えられています。
つまり、英国でディナーにインド料理を食べるということは、すなわち英国定番の食事をしているのと同じ。この国を観光で訪れる人には、植民地時代からの伝統を受け継ぐ英国文化を深く理解するためにも、一度はこの料理を楽しんでほしいですね。
英国ではカレーは、価格帯はピンからキリまで幅広く、食事の仕方もあらゆるスタイルに対応しています。高級レストランからテイクアウトの店まであり、スーパーでは電子レンジで温めればよい実用的なレトルトパックも販売されています。


スーパーで販売されているレトルトパック。電子レンジで温めるだけ…。

カレーは「英国で一番食べられている料理だ」と言う人もいますが、「国民食はフィッシュアンドチップスだ」と主張する人もいますし、「ロースト料理だろう」と言う人もいます。
さて、インド料理で是非体験したいのが、英国における「カレーの中心地」(Curry Capital of Britain)の座を争うバーミンガムやブラッドフォードのディナーです。
バルティ(Balti)と呼ばれる鉄製の平鍋で供されるバルティカレーは、見た目にも華やかなとても洗練された料理で、ビクトリア女王がカレーを好んでいた当時を彷彿とさせます。
さまざまな国の料理が融合したフュージョン料理(多国籍料理)では、異なる2つの世界の伝統や相対する特色から傑作が生まれることも多く、これは料理を通じてのみ成しえるものだと私は考えます。
そう考えると、料理を通じて異なる世界を調和に導くことも難しくはないような気がします。
私自身も、遠く異国を思い起こさせる香辛料の香りを漂わせた、さまざまな地域のレシピを組み合わせて料理することがよくあります。その最たる例がクスクスです。
便利な一品で、欧米の食材や料理にもとてもよく合います。
自宅の食卓にも登場し、必要な食材はパントリーに欠かしたことがありません。
ロンドンは多文化の街ですから、どんなエスニック料理の店も見つかるでしょうが、「新しいカレー」(次の新たな食のトレンド)としてどんな料理が現れ、それがどこ発祥のものかは、誰にも予想がつきません。
イタリアではフュージョン料理はあまり人気がなく、イタリア人は食に関してまだかなり保守的です。
さて、日本ではいかがでしょう?

特派員

  • ジャンフランコ・ ベロッリ
  • 職業ブロガー/ミュージシャン

私がロンドンに引っ越してきたのは2年以上も前ですが、ロンドンの外国人居住者向けのニュースレターで、この大都市での体験や新しく引っ越してきた外国人向けのアドバイスを紹介するようになったのは昨年からです。ロンドンはとてもダイナミックな街で、だれもが楽しめるものがたくさんありますが、迷うことなく満喫するためには地元の人の目線を参考にすることが大切です。みなさんにロンドンの隠れた魅力をお伝えするガイドになりたいと思っています。

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