そんな日本を恋しく思う気持ちを和らげ、メキシコにいて良かったと思わせてくれるのがハカランダです。日本では馴染みのない花ですが、ここメキシコでは春を象徴する花。メキシコシティでは2月初旬頃から4月下旬頃まで楽しめます。薄紫色で円錐型の花を咲かせるのですが、その鮮やかさは本当に美しいです。
ハカランダ(jacaranda)
メキシコ各地で見られるハカランダですが、原産国はブラジルだそうです。メキシコはスペイン語なのでハカランダと呼ばれますが、原産国のブラジルではポルトガル語でジャカランダと呼ばれます。ハカランダの和名は紫煙木(シエンボク)や紫雲木(シウンボク)と言うようです。そして鳳凰木(ホウオウボク)、火焔木(カエンボク)と並び世界三大花木とされています。日本では気候の関係でハカランダの花を咲かせるのは難しいようですが、それでもハカランダを見られる場所はあるようです。東京にも咲いているところがあると知り驚きました。
さて、タイトルにも書いたようにハカランダはメキシコに住む日系人の間で通称メキシコ桜とも呼ばれています。その理由はハカランダが一人の日本人によってメキシコへもたらされたから。その人物とは松本辰五郎という日本人庭師で、19世紀にメキシコで庭師として活躍していました。そして20世紀、1912年に東京からアメリカの首都ワシントンに桜の木3000本が寄贈されました。このことはご存じの方も多いのではないかと思いますが、その後メキシコも友好の証として桜の木を寄贈してもらえないかと当時の大統領ポルフォリオ・ディアスが日本政府に要請したのです。その際、日本政府が松本辰五郎にメキシコで桜の木が育つか尋ねたところ、難しいだろうと否定的な回答でした。その代わりにハカランダをブラジルから持ち込むことを提案したのです。松本辰五郎の考え通りハカランダはメキシコで綺麗な花を咲かせ、今年も人々の目を楽しませてくれています。
桜とは色形は違うものの、メキシコで花を咲かせる時期や並木道、花が散る際に薄紫の花が絨毯のようになるところも桜と似ていてメキシコ桜と呼ばれているのも納得です。私もこの花を見た時から桜みたいだなと感じ、この木の下でお花見をしたりしています。日本のお花見といえばみんなで美味しい料理とお酒を囲んで、たわいない話にも花を咲かせ賑やかな時間を過ごしますが、メキシコは公共の場での飲酒は禁止です。公園はもちろんマンションの庭であってもお酒は飲めません。そのためか日本のようなお花見の光景は見られませんが、カフェでテイクアウトしたコーヒー等を片手に散歩したり、ベンチに座って談笑していたりします。綺麗な花を写真に収めたくなるのは日本もメキシコも同じようですね。メキシコにハカランダを植えてくれた松本辰五郎の思いやその歴史を考えると、いっそうハカランダに親しみを感じます。薄紫の花で彩られた春の風景もとても美しいですよ。