
毎週土曜日の午後、イタリアの都市部に住む人たちは「ストルシオ(struscio)」のために街に繰り出します。ストルシオとは、他の歩行者に自分のファッションセンスを認めてもらうために、「コルソ・イタリア(Corso Italia )」(イタリア通り)と呼ばれる街の中心にある歩行者エリアを自分なりに最高のおしゃれをして歩くことを意味します。
ゆっくりとしたペースでそぞろ歩きながら、ウィンドウショッピングをしたり、エスプレッソをさっと飲むために地元のカフェに立ち寄ることもあります。ストルシオはイタリア人にとって重要な、非公式のソーシャルイベントです。
ストルシオは本来「こすること」を意味します。車の通行を遮断した歩行者専用道路では、往路を行く人と復路を行く人がそれぞれ正反対の方向に向かって歩いていますが、すれ違うときにお互いの「肘がこすれる」ことに由来します。
毎週土曜日の午後、人びとは街の中心に集まり、イタリア通りを完全に占領して友だちとおしゃべりしたり、新しい友だちを見つけたりして何時間も気ままに過ごします。ほとんど全員が知り合いという小さな街では、散歩の途中で立ち止まっておしゃべりしたり、友達と鉢合わせしたりしますが、ストルシオは友だちの輪を広げるのにも役立ちます。
日没後も終わらないことのある「ストルシオ」
郊外に住む人でも、わざわざバスや電車、あるいは車でやってきて、道行く人をながめたり、人の流れに身を任せて何時間も過ごします。 「ストルシオ」で、デザイナーズジーンズや買ったばかりの流行のジャケットを披露したいのです。若者にとっては、同世代同士で集まって意見や考えを交換するいい機会になります。シニア世代も歩道に並べられたオープンカフェのイスに座って通行人を観察し、その服装や髪型を批評して「ストルシオ」に参加します。
通行人を観察することはあらゆる世代にとって、次のシーズンの新しいトレンドを探るのに役立ちます。帰属意識が強く、他人の持っているものを欲しがるイタリア人にとって、流行のおしゃれをすることは重要です。他の文化に比べて、イタリアでは洋服がステータスシンボルになることが多く、特定のブランドの服を身に付けていれば簡単に社会で居場所を見つけて、自分の性格や習慣、好みなどを事細かに説明する相手を見つけることができます。そのため、イタリアではファッションは無言のコミュニケーションになっています。
歩道に並ぶ地元のカフェのテーブル
散策に最適なイタリアの街路
その昔、ストルシオは若い男女が家族の監視の下で会うために行われていました。現在では自由になり、ティーンエイジャーは親に監視されずに歩き回ったり、スクーターを乗り回したりしています。
この「儀式」としてのお散歩デートは実に19世紀までさかのぼります。当時はイースター前の数週間は馬や馬車に乗ることが禁止されていました。この聖週間には教会を徒歩で巡回する儀式が行われ、観衆は大通りを歩いて回らなければなりませんでした。この儀式に参加する観衆の多さを考えると、当然歩くペースは遅くなり、最後には他人の体をこするように進むこともありました。若者は親に新しい服を買ってもらえるので、特にこの聖週間を楽しみにしていましたが、この時代には奇抜な服や派手な服は好まれなかったので、当時のストルシオには現在のように非公式のファッションショーの役割はありませんでした。


