- 2017.07.25
- リグーリア特産の柑橘類、「キノット」のお話
「サヴォーナ産キノット」とは、リグーリア州の代表的な果物のことです。鮮やかな緑色の小さな丸い実が熟すとイエローオレンジに変わる柑橘類で、タネがほとんどないのが特徴です。このキノットという柑橘類の起源は、厳密には突き止められていませんが、ダイダイの突然変異の一種が長い年月をかけて変化を遂げ、現在キノットと呼ばれる種類になったとの説が、複数の研究者によって唱えられています。熟したキノットの果実 最大で3メートルまで成長するキノットの木の枝には、葉がみっしりと生い茂ります。明るい緑色の小ぶりな葉っぱは、このフルーツのラテン語名の由来でもあるマートル(=ギンバイカ)の葉に似ています。枝の先端部に白い小さな花がたくさん付きますが、木の幹に一輪だけ咲くこともあります。花を付けた木はとりわけ美しいので、庭園や屋内の観葉植物として、花器で育てられている姿もよく見かけます。キノットの木 果実は小ぶりで丸く、その果汁は苦味と酸味がとても強いです。だいたい6月の中旬頃に果実の完熟期を迎えるこの木は、寒冷な気候には弱いのですが、ここリグーリア地方は幸いなことに、年間を通じて温暖な気候に恵まれているのです。数人の研究者は、キノットの名前は中国由来であると主張しています。一説には、15世紀末から16世紀初頭にかけて、リグーリア地方の商人がこの果物を持ち込んだとされています。その説によると、サヴォーナとフィナーレ・リーグレの間にあるリグーリア海岸地域の土地がキノットの栽培に適していることを発見したのは、中国帰りのサヴォーナ人航海士だったとか。そして19世紀末、サヴォーナでは、この果物の栽培と販売を担う「ソシエタ・デ・ファブリカンティ・ディ・キノッティ(キノット生産者組合)」が設立されたのです。豊かな葉で覆われたキノットの木 一部の植物学者によれば、この果実の原産地は地中海地域であり、その名称も単に「中国風の」フルーツという意味でしかないそうです。実際のところ現時点では、この植物がアジアの国々で栽培されたことを証明するような事実は何もありません。イタリア(リグーリア州、トスカーナ州、シチリア州、カラブリア州)以外の土地での栽培例は非常に限られていて、気候がリグーリア州のそれと酷似しているコート・ダジュール地域にわずかに見られる程度です。この苦みの強い小さなフルーツは伝統的に、マーマレードや飲み物、シロップなどの材料として使われてきました。このダイダイの香気には殺菌力があり、人々の健康を守ると言われています。キノットの果実は、かつてはアルコール飲料(ワインやアブサントなど)と合わせて食前酒として楽しんでいましたが、最近ではシロップ漬けにしたりして、デザートにも活用されるようになりました。ビターな風味が強いキノットの果汁は、食後酒や苦みを効かせたドリンクを作るのにも活躍します。しかし、キノットの果汁の最大の用途と言えば、同じ名前を持つ飲料の材料です。飲料となったキノットは茶色のビターなソーダで、ガラス瓶のままテーブルに運ばれてくるのが一般的です。世界中で売られているキノット フロム サヴォーナ 地方のオーガニックな特産品と伝統文化としての料理を守り、かつプロモーションすることを旗印とするスローフード・ムーブメントの一環として、リグーリア地方ではキノット関連の商品を取り扱うショップがたくさんオープンしました。私はある専門店の親切な店主に、店舗のバックヤードで育てているキノットの木を見せてもらったことがあります。マスタード、ハチミツ、ビール、ソースなど、この果物を使った製品も紹介してくれました。キノットは先ごろ保護作物に指定されました。サヴォーナ産キノットは2004年から、スローフード協会がイタリア全土での栽培を促進する作物リストにも加わっています。