• 2018.01.05
  • 三博士と良い魔女と甘い石炭
今の季節を歌った有名な曲の一節のように、「それは一年で最高に素敵な季節!」の到来です。
クリスマスと大晦日は誰もが大好きなお祝いですが、注目度で言えば劣るものの、イタリア(と、カトリック信者が多い国々)にはそれらとは別の祝日があります。それは、1月6日の公現祭、別名「東方の三博士の日」です。イタリア人にとっては、ある意味で恐怖の祝日でもあります。というのも、この日は冬の休暇の最終日なので、休暇が終わって仕事や学校の日々が(大抵の場合はその翌日から)再び始まることを意味するからです。
イタリア語には“L’Epifania, tutte le feste si porta via”という決まり文句がありますが、これは「三博士がお祭りを終わらせる(公現祭はお祭りの締めくくり)」という意味です。
宗教的伝承によると、この祝日は東方の三博士が幼子イエスの馬小屋を訪れた日だそうです。三人の博士は、救世主の誕生をお祝いするために現れたのでした。

この伝統的な祝日に子供たちのところまでお菓子を届けてくれる人物は、昨今ではホウキに乗ったおばあさん(魔女に似ているけれど人間には親切)と相場が決まっています。1月5日から6日にかけての夜、ホウキに乗って空を飛んでは子供たちの家を回り、前年に良い子だったかどうかによってお菓子と「甘い石炭」のどちらかを置いていく、ボロ服をまとった老女のベファーナは、事実、民間の言い伝えとしては馴染み深いものでした。では、このベファーナに付きもののお菓子があるのをご存知ですか?
「ベファーナの炭」とは甘い石炭のことで、その由来は歴史をひもとけばすぐに見つけられます。実際、石炭は地球の再生に深い関連を持つ異教徒の儀式のための焚火を連想させます。もともとは伝統的な行事の一環として靴下の中に石炭を詰めていたのが、その後、子供たちの前年の行ないの悪さを懲らしめるという意味合いを持つようになったのです。
つまり、良い子のみんなはキャンディやチョコレートを貰えるけれど、言うことを聞かない悪い子には前年の行ないに対する戒めとしてお砂糖入りの「石炭」が配られる、というお話に変わったのでしょうね。

悪い子には甘い石炭を配るベファーナ

私の住む地方に伝わる歌では、この老女がやって来る姿を次のように歌っています。
「夜になるとベファーナがやって来る やぶれた靴とツギハギだらけのスカートを履いている 長生きのベファーナばんざい!」

おそらく、この伝統行事の歴史は宗教的な意義よりも古く、キリスト教への信仰心から公現祭の慣習が三博士の日と一緒になったのはもっと後になってからのことでしょう。
1月上旬にプレゼント交換をするという行為は、時を遡ること紀元前6世紀に行なわれていた、農業にまつわる異教の儀式が進化したものだと思われます。
前年の豊作に感謝を捧げながら新しい年も同様であるようにとの願いを込め、人々は毎年この季節になると、自前の収穫物を互いに捧げ合って祝福の儀式としていたのでしょう。では、魔女の姿をした女性というキャラクターの出どころはいったいどこにあるのでしょう?それを語る上で、すべての異教の儀式が4世紀以降、ローマ教会によって排斥されて来たことは重要なポイントです。それらの儀式の背景には邪悪なものがあると考えられていたのです。見るからにネガティブな表象であるベファーナの姿が醜い老女であると同時に人の好いキャラクターとして描かれるのは、そんなわけなのですね。この地方に伝わるフォカッチャ・デッラ・ベファーナ(「ベファーナのフォカッチャブレッド」)は、1月6日に食べる代表的なお菓子です。この特別なフォカッチャは、フォカッチャとは名ばかりの、アーモンドやゴマを入れてリッチに仕上げた長時間発酵のケーキで、パンや味つけフォカッチャとはまったく別ものです。生地の中にコイン(混ぜる前に丁寧に洗ったもの)を忍ばせて焼き、食べるときにコインを見つけたら、それは幸運のサインとされます。コインのせいで歯が欠けないよう、くれぐれも気を付けて!

お菓子が詰まっているベファーナの靴下

リグーリア州の公現祭は子供のためのお祭りで、この日はたくさんのイベントが開催されます。子供たちを対象としたプレゼント付きのお楽しみ会、お芝居や人形劇、さらには伝統的キャラクターのベファーネ(お菓子を配る高齢女性たち)までが海の彼方から登場して大賑わいとなります。この行事は、リグーリア州の西部地方で行なわれていて、プレゼントやキャンディやお菓子を携えたベファーネを乗せた船の到着を子供たちが浜辺で待ち構える光景が毎年見られます。年末年始のホリデーシーズン中、地方自治体が選抜した団体がこのイベントを主催します。通常、新年を「祝福」するために市庁舎に飾られている月桂冠に祈りを捧げ、このイベントは幕を閉じるのです。

気のいい高齢の魔女、その名はベファーナ

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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