エイプリルフールの歴史的な起源については明らかになっていませんが、14世紀にイタリアのアクイレイアという町で生まれたという説を唱える歴史家がいます。彼らによれば、4世紀前半にサン・ジェネージオの町長であったベルナルドという人物が、魚を喉に詰まらせて窒息しかけた教皇を助けたのだそうです。一命を取りとめた教皇は、その出来事を忘れぬように、アクイレイアでは毎年4月の1日を「魚を食べない日」としたのだとか。その後、この逸話は地域の歴史書にも書き加えられました。とはいえ、現在のエイプリルフールの特徴、すなわち「イタズラを仕掛ける」という習わしがどこから来たのか、この話だけでは全くわかりません。
誰もが知ってるエイプリルフール。でも、この日にあわせて作られるリグーリア州の代表的なデザートについてはあまり知られていません。4月限定ですが、リグーリアのペストリーショップでは、毎年4月1日前後にケーキ職人が手作りしたこのお菓子が販売されます。
Torta Pesce d’Aprile(4月の魚のケーキ)と呼ばれるクリーミーで美味しいこのケーキ。魚を使っているわけではなく、見た目がお魚の形をしています。サボーナ市(ジェノヴァの近く)生まれだということだけは確かですが、最初に作られたのはいつなのか、レシピを考案したのは誰なのかは謎に包まれたまま。わかっているのは、もっぱらエイプリルフールの冗談のひとつとして生まれたものだということだけ。
Torta Pesce d’Aprileは、スポンジケーキと幾層ものクリームを重ねたケーキです。よく見かけるのは、ホワイトクリーム、カスタード、ラズベリージャム、ヘーゼルナッツスプレッドまたはチョコレートムースを使用したもの。しっとりしてクリーミーなケーキにひと手間加え、チョコレートチップやナッツ、チェリーのシロップ煮などを挟むことでサクサクした歯ごたえや食感の変化を演出するパティシエもいます。
ケーキの上面を覆うバタークリームとアーモンドペーストに細工を施し、「魚のウロコ」などの細部をリアルに再現して飾りつけたものをよく見ます。中には、クマノミや大きなクジラに似せて作った、リアリティより可愛さ重視派のタイプも。パティシエたちがこのお菓子に注ぐ情熱は相当なもので、地元で最高に見栄えの良いケーキを作るべく、職人同士で火花を散らすほど。(魚の目の部分に)食用グリッターやキャンディー、お砂糖などを使ったデコレーションを散りばめたケーキがケーキ屋さんのウィンドウの中に麗々しくディスプレイされ、人々の視線を集めています。リキュール抜きの子ども用とアルコール入りの大人用の2種類を用意し、「双子」の魚(大抵は色違い)として売り出すお店もチラホラ。
エイプリルフールには魚のケーキを召し上がれ
エイプリルフールは4月1日だけですが、魚のケーキの人気は4月いっぱい続きます。イースターの祝日が4月初頭に当たる年は、パームサンデー(イースターサンデーの前の日曜日)にもこのケーキを食べます。お母さんが焼いた(少し小ぶりの)魚のケーキを子どもたちが好きな食用素材でより魚らしく見えるように飾り付け、その傍らで大人チームが昔ながらのホーリーパーム・ツイッグをせっせと編むというのが、伝統的なパームサンデーの風景です。リグーリア州にこの伝統がとりわけ色濃く残っているのは、礼拝に使うツイッグ(細い枝)に用いられるナツメヤシなどがよく育つ土地ならではのことでしょう。
資料によると中世の時代からヤシの小枝を編んでいたという記録が残っています。その記録には本当に多くの編み方のパターンが載っていて、どの町にもオリジナルなスタイルがあることに驚かされます。
ホーリーパーム・ツイッグ