• 2018.09.11
  • 伝統のレシピあれこれ
フードフェスティバル、スローフード運動、ホリデーファームなどについてはこのブログでも取り上げてきましたが、イタリア人は食事中でも食べる話ばかりしていると言っても過言ではなく、「食」はイタリアでは常に話題の中心です。というわけで、今回はリグーリアの名物料理をいくつかご紹介していきましょう。いずれも今や幻のメニューとなりつつあるのは、調理にそれなりの技術と忍耐力と伝統の裏付けを必要とするためで、残念なことにそれらを出してくれるレストランもめっきり減ってしまいました。
すでにメニューから消えてしまったレシピの一つが、フリスコ・ディ・ジャンケッティ(frisceu di gianchetti=「魚のフリッター」)という代表的なリグーリア料理です。「幼魚」を意味する方言のgianchetti(イタリア語でbianchetti)は、厳密にはイワシやカタクチイワシの「稚魚」のこと。近年これらが激減してしまったため、近海での漁は法律で禁止されているのです。かつては大量に獲れていたこの幼魚に衣をつけて揚げたものが、このフリスコ・ディ・ジャンケッティというわけです。
調理に技術を要するリグーリア料理の代表といえば、カッポン・マーグロ(cappon magro)です。カッポーネ(capppone)というのは食用の雄鶏(capon)を指すイタリア語なので、このネーミングはいつも不思議に思えてならないのですが、実はこれも材料に魚を使った料理です。
土で育つもの(野菜)と海のもの(魚介類)を組み合わせることでそれらの風味と彩りが引き立て合うこのレシピは、山と海に囲まれたこの地方を象徴するような一品と言えるかもしれません。
はるか昔、貴族の宴会の残り物をその召使たちが再利用して食べていた時代のレシピで、余った魚のスープに野菜を加えてアレンジしたものが始まりだと言われています。肝心の料理名ですが、「スープ用にニンニクを擦り付けたトーストパン」を意味するフランス語のchaponを語源とする人もいれば、台所事情が厳しくなって、本来の材料の「雄鶏(capon)」に魚が取って代わったという説もあり、その由来は定かではありません。かつてこの地域では魚は正に農民の食料と考えられていて(自然界で見つけやすいため)、肉と言えばもっぱらお金持ちが食べるものでした。しかし今や魚介類はお肉よりもはるかに高価な食材。魚料理専門のレストランは高級店のイメージで、特別な日に行くものとされているほどです。


カッポン・マーグロは超カラフルな一皿

現在のカッポン・マーグロはリグーリアの高級料理の代表格で、お祝いの席や復活祭前の祝祭、クリスマスの昼食などに登場します。
多くの食材の下ごしらえに加えて、ジェンガの料理版と言いましょうか、食材を美しく積み重ねて仕上げるので、このレシピを作るには長い時間がかかります。お好みの魚介類、カリフラワー、ビートルート、アーティチョーク(季節の素材を重視するリグーリアでは、旬の時期にはこれを入れます)、スコルツォネラ(ブラックサルシフィとも呼ばれるゴボウの一種)、セロリ、ニンジン、サヤマメ、ボイルしたジャガイモ、ラディッシュ、パン粉、マッシュルーム(旬のもの)、固ゆで卵を互い違いに重ねた上からパセリのみじん切り、レモン汁、ビネガー、オリーブオイルを振りかけます。
すべての材料は薄く切るなり細かく刻むなりしておくことが不可欠なのは、皆さんお察しのとおりです。この手間を怠ると、巨大な食材の山が出現して大変なことに!
ヘンテコな名前のレシピが多いリグーリア料理。その一派に入りそうなbrandacujùnはまさに絶品です。
ジャガイモと干し魚(保存食用の塩ダラ)で作るbrandacujùnは、典型的なリグーリアの名物料理です。リグーリアの西海岸地方で特にポピュラーで、必要な材料は塩漬けのタラ、ボイルしたジャガイモ、ニンニク、パセリ、オイル、オリーブ、レモン汁、塩と黒コショウです。
これの作り方がユニークなのは、上記の材料を容器に詰めたら、カクテル作りの要領で食材が混ざりあうまでシェイクするところ(やり過ぎてドロドロの状態にするのはNG)。


100点満点のBrandacujùnを作るのは至難のワザ

ゼーナ(この地方独特のジェノヴァの呼称)でぜひ食べていただきたいのは、クルミのソースのパンソッティ、pansöti co-a sarsa de noxe(pansaは「お腹」を意味するリグーリアの方言)です。パスタに詰め物をしている点ではラヴィオリに似ていますが、その大きさと中に肉が入っていない点が基本的に異なります。ハーブ、リコッタチーズ、ホウレンソウを詰めたパンソッティに、クルミのソースを温めないまま(ペストソースと同様)からめて出来上がり。このソースは牛乳、皮をむいてつぶしたクルミ、柔らかいパン生地、ナツメグをミキサーにかけて作ります。
ここでご紹介した伝統料理たち、見た目はちょっと風変わりですが、どうぞご安心して召し上がれ。どれもお味は保証付きですから!

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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