• 2018.11.12
  • ワインが生まれるリグーリアの段々畑
「土地とブドウ園の再生という仕事は、厄介で骨が折れるものなの。そのあとの労働や栽培なんて、全体から見れば一番ラクだと言えるぐらい。」これは、リグーリアのチンクエテッレ(「5つの土地」の意味)の村の一つであるモンテロッソで小さなワイン製造業を営む友人の言葉です。

彼女がオーナーを務めるアッシャ・ヴィニヤードは、チンクエテッレ国立公園の中、モンテロッソとヴェルナッツァに挟まれた丘にある3ヘクタールほどのブドウ園です。
アッシャ・ヴィニヤードは、何世紀も前から続く歴史を持ち、海を見下ろすように広がる段々畑で、外部的な影響に対して極めて強いこの土地の再生と生産力の向上に尽力しています。彼女は50年以上も見捨てられていたこの丘を見事に復活させました。地域と同社の連携プレーが功を奏し、今やチンクエテッレ産 DOC ワイン(DOCとはDenominazione di Origine Controllata=デノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・コントロッラータの略語。ワインの原産地を認定するもので、イタリア産ワインにはこのラベルが貼られます)の生産拠点となったこの丘は、ワインと伝統とアートが共存する意義深い場所へと変貌を遂げたのです。
リグーリア地方では伝統的に、女性たちが土地を耕しながら家族の世話をしてきました。リグーリアの方言で“lady”を表す、女性のイメージを強調した会社名を彼女が選んだのも、偶然の出来事ではないのですね。


シャッケトラの生産地チンクエテッレ

リグーリア地方のブドウ栽培は、山と海に挟まれた山地が大半という地理的条件のため、なかなか興味深い手法で行われます。

特徴的な石垣で支えながら急傾斜地に作った帯状の段々畑(イタリア語で“fasce”)は、ブドウの収穫や運搬をすべて人力でまかなうワインの生産者にとっては文字通りの難所です。この厳しい地形に加え、豪雨によって頻繁に起こる冠水に見舞われてしまうと、さらに深刻な状況が重なり、ワインの製造そのものが危ぶまれる事態に陥ります。
リグーリア産のワインの値段が高めだったり、よその地域で見つけるのが難しかったりするのは、このような事情によるものなのです。


段々畑式のFasceは典型的なリグーリアのブドウ園

地元住民が家族で飲むために作っているとか、一年でせいぜい数百本分ほどを製造する程度の、いわば趣味レベルの栽培者が大半であることも、リグーリア地方のブドウ栽培の現状を物語っています。
ブドウ栽培の規模はこのように限られてはいるものの、古代ギリシアやローマ時代からの千年の歴史を誇るリグーリア産のワインは、質の高いことで知られています。
リグーリア産ワインの成長と成功は、ジェノヴァの都市の発展を抜きにしては語れません。ジェノヴァが港町として栄えた時代、船乗りたちがブドウの蔓を持ち帰っては土地の一画で栽培するようになりました。
リグーリアのブドウ栽培は現在、ラ・スぺツィア、チンクエテッレ、西リヴィエラの大部分のいずれかに集中しています。
リグーリアでは白ブドウ系品種の栽培が主流です。特に多いのが、ヴェルメンティーノとピガートという品種。ドルチェアクアのロッセーゼ、ドルチェットといった赤いブドウの栽培を行っているのは、リグーリア地方でもフランスとの国境に近い最西端エリアになります。
チンクエテッレのシャッケトラと言えば、最も良質な地元産のブドウを丹念に選び抜いて作られた逸品です。ワイン名の語源は“crush”=「潰す」)”を表す方言のsciacaa。ワインの工程でブドウを潰すことから、この名前になったのですね。
100%手摘みによるブドウの収穫作業をはじめ、栽培方法には厳格なルールが定められています。

圧力弱めの圧搾、温度調節なしの長時間発酵を経て、オークと桜の樽で発酵と熟成すること12か月間。これらの一連の工程の末に、アルコール度数13%のワインが完成するのです。
チンクエテッレで作られた正真正銘の(大量のニセモノがお土産売り場に並んでいるのでご注意!)シャッケトラは、地中海沿岸の灌木と干したアプリコットの香りを秘めた、風味豊かな甘口のワインです。熟成が進んだチーズや焼き菓子との相性が抜群とのこと、これはぜひとも試してみたいですね。


リグーリア産の主流は白ブドウ

これらの品種を栽培するブドウ園の空いた区画を利用して、フルーティでストラクチャーの優れたロッソ・リグーリア・ディ・レヴァント以外にもサンジョベーゼ、メルロー、シラーなどの赤ワインも作られています。

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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