• 2019.07.16
  • 小さな黒い宝石たち:タジャスカ・オリーブのこと
今やイタリア中で有名なタジャスカ産オリーブ(英語では「カイエティエ」)の人気は国外でも高まっていて、世界各地の大都市では、イタリア料理のメニューの中にこの名前を見かけることも多くなりました。そのまま単独で食べても食前酒と一緒に食べても美味しいし、バーのハッピーアワー(イタリア語では「アぺリティーヴォ」)で食前酒と一緒によく出てきたり、ピッツァや冷菜の材料としてもお馴染みの食材です。


種抜きタイプのタジャスカ・オリーブ

■タジャスカ・オリーブのルーツについて。

まず、タジャスカ・オリーブというのは特定の種類のオリーブで、おもにリグーリア地方の西部、特にインぺリアで多く生産されています。ここはタッジャと呼ばれる自治体。地元に伝わる話では、タジャスカ・オリーブをタッジャに最初に持ち込み、本土でそれらの栽培を始めたのは、海岸のすぐ正面にあるレリノ島(注:現在はフランス領レランス諸島のひとつ)のサン・コロンバノ男子修道院の修道士たちなのだとか。タジャスカ・オリーブの名前は、このタッジャの町にちなんで付けられたのですね。
それから数百年の間に、タジャスカ・オリーブはタッジャ以外の土地でも生産されるようになり、後にはイタリア半島のほぼ隅々まで行きわたりました。それでも、このオリーブの最大の産地が本物のタジャスカ・オリーブを作っているインぺリアであることは変わりません。

■タジャスカ・オリーブの栽培法について。

タジャスカ・オリーブは誰が見ても他の品種より小さいのですが、その木は高いものだと15mまで伸びます。
知名度も人気も高いタジャスカ・オリーブですが、昨今の気候変動による深刻な影響を受けているのは他の品種と変わりません。ただ、規模が大きめの自然災害が発生しても、オリーブの安定した高い生産量までは脅かされずに済んでいます。いわゆる天敵の中でも虫、冬の寒さや夏の日照りなどは、オリーブの木の抵抗力を低下させる大敵です。
タジャスカ・オリーブの特徴的な楕円形の実は、熟すのが1月頃と若干遅め。リグーリア地方では、収穫する数か月前から厚めのネットを木の下に仕込んでおきます。こうすることで、早めに熟して木から落ちた実まで、ムダなく回収できるというわけですね。1月の完熟期になると、生産者と働き手はオリーブ林で「トラッペ」と呼ばれる長い棒を使いながらオリーブの枝を揺らし、網の中にオリーブの実を落としていきます。これが伝統的に代々受け継がれてきた古式ゆかしい方法ですが、より簡単で速く、何といっても少ない労力で作業できる、機械式スティックを使った収穫法が、ここ数年で増えてきています。

■タジャスカ・オリーブオイルの精製について。

最もジューシーなオリーブと言われるように大量の油が採れるのも、タジャスカ・オリーブの大いなる美点です。良質なエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルの製造にこのオリーブが広く使われている理由も、まさにこれですね。
タジャスカ・オリーブから採れるオイルは鮮やかな黄色をしています。複雑なアロマを放つ、熟した果実のような香りには、独特の甘いニュアンスと同時にアーモンドや松の実を思わせるスパイシーさも感じます。酸味が少ないオイルなので風味が上品で、官能特性が高いのも特徴です。
タジャスカ・オリーブの値段が高くなりがちな理由は、オリーブの中でもジューシーな特別の品種という点に加え、収穫時には苦みが強いため、食用に適した風味になるまで塩や地中海独自の香料を使った天然加工を数ヶ月がかりで行っているからです。
タジャスカ・オリーブの製品としては、ビン詰めのマリネやフランスの「タプナード」によく似たパテなどがお馴染みです。


種を抜いてマリネにしたオリーブ

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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