• 2021.09.02
  • イタリア対イングランド戦、そしてジェノヴァとイングランドの「旗」をめぐる歴史
7月に行われたEURO 2020(UEFA EURO 2020TM サッカー欧州選手権)決勝では、イタリアがイングランドを破って優勝を果たしました。
サッカーと言えば我が国では一大事ですから、ここジェノヴァをはじめ、イタリアじゅうが祝賀ムードで浮きたちました。
リグーリア州のあちこちでは花火が打ち上げられ、人々は歌い踊り、発煙筒がたかれ、そこかしこのバルコニーには旗が掲げられました。
ナショナルチームの試合があるたびに「自らのルーツ」を見直し、愛国精神をあらためて自覚するのがイタリア人なのです。
イタリアのEURO 2020優勝を祝うジェノヴァ住民のどんちゃん騒ぎは、フェラーリ広場から始まって街中に広がりながら、夜が明けるまで続きました。特に人が多く集まる場所で営業していたフードトラックは、ひと晩で大いに稼ぎを上げたようです。

決勝戦の終盤にイタリアがPK戦で勝利を決めると、街の中心部ではクラクションを鳴らす車やスクーターが旗を立てて回転木馬のようにぐるぐる回ったりパレードしたりと興奮のるつぼと化しました。中にはてっぺんに立って旗を振ろうとフェラーリ広場の噴水によじのぼった御仁もいたようです(噴水を壊しかねない、残念な行為ですが)。
ラジョーネ宮の目の前の空は花火に彩られ、歓喜と感動の渦は歴史地区の細い路地やサン・ロレンツォ大聖堂や旧港、さらにはショッピングエリアのあるあたりまで広がっていきました。
自治体はこの日のために、フェラーリ広場と旧港(ポルト・アンティコ)の2か所に巨大スクリーンを設置し、決勝の様子を放映しました。
このライブビューイング、当初の計画ではワクチン接種済みか検査結果が陰性の人のみこのエリアに立ち入り可能、としていましたが、これに反発する声が集まったことで、暴動や器物破損などのトラブル防止のため、自治体は警察部隊を派遣して囲いを撤去し、誰でも参加できるようにしたのです。
変異ウイルスとしてニュースになっているデルタ株の感染拡大を重く見て、ジェノヴァ以外のイタリアの都市では、人々の密集による新型コロナウイルス蔓延を避けるために巨大スクリーンの設置を断念したところもあります。
2か所に特設スクリーンを出したジェノヴァ市の行政判断は、市長のFacebookのページでも大いに物議を醸すところとなり、決勝当日の夜には、サポーター達の気持ちを静めようと市長自ら街の中心部に姿を見せるというひと幕もあったほどです(うまくいったとは言えませんが)。
救急車やパトカーも待機していましたが、幸いにも惨事は起こらず、その夜はいたって平和に幕を閉じたものの、このイベント後の数日で新型コロナウイルスの感染者数が増加しました。


こんなところにもイタリア国旗!

興味深いことに、都市ごとに多くの種類が揃うイタリアの旗の中に、対戦相手であるイングランドの旗にそっくりのデザインがあるのですが、実際の話はそうではありません。
白地に赤い十字のジェノヴァ共和国の旗とイングランドの旗は、よく知らない人が見れば見分けが付かないでしょう。ジェノヴァの旗には実際、聖ジョージ・クロスが描かれています。
海洋における強権のシンボルである聖ジョージ・クロスは、ジェノヴァが持つ海洋共和国としての力を表していました。ジェノヴァ共和国の黄金時代と同時期、その強国ジェノヴァと勘違いした相手が攻撃を思いとどまるよう警告のサインとして、保護の象徴であるこのデザインの旗を採用したのがイングランドでした。
ジェノヴァはその時もちろん、同じ旗の使用に対する許可を出したということです。


友達と一緒に決勝戦を視聴する人々

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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