• 2021.11.24
  • ジェノヴァのソーシャル・シアター
「ソーシャル・シアター」に、正式な定義はありません。
この実践行為を継続的な研究と社会的実験の中間に位置付けようという議論もなされています。
私が初めてその名を耳にしたのはパンデミックの最中で、「治療目的」として行われる演劇のことをそう呼ぶのだと知りました。
ソーシャル・シアターに取り組んでいる学校やプロジェクトは、リグーリア州だけでなくイタリア各地、そして確か国外にもあります。企画や運営は演劇や福祉の推進に詳しい専門家たちが行い、社会的立場の弱い人々や共同体に参加を呼びかけています。
ソーシャル・シアターでは、演劇の方向性、パフォーマンスやイニシアチブのすべてに文化的、社会心理的な目的があります。
ソーシャル・シアターは、いわば演劇体験であり、また心理的・身体的に苦しみを抱える人たちを巻き込んだ実験でもあると考えられています。
このテクニックは、刑務所やコミュニティー・シアター、政治亡命者や暴力被害者の女性、不安な状況に置かれた若者らが演じる劇でしばしば用いられています。
ジェノヴァにもいくつか存在しますが、中でもジェノヴァ市(と、その他の都市)に流れ着いた難民や移民のためのソーシャル・シアターは、とくに有名です。
ジェノヴァは港町なので、新たにやって来る移民や難民を常に受け入れています。
住居の提供や経済支援を行う取り組みも数多く存在しますが、ソーシャル・シアターは彼らが社会に溶け込んでその一員となれるよう、地域と国の言語や習慣を学ぶための場として活用されているそうです。
今回ご紹介するソーシャル・シアターがリグーリア州の伝説やリグーリアゆかりの有名な人物の物語を上演するのは、新しくやって来た外国の人たちに、ここの文化を知ってもらうためなのです。
つまり、社会的・教育的な目的で劇団が立ち上げられたら、それはソーシャル・シアターだということです。
彼らの基本理念は、環境、人間関係、家族、仕事など色んな背景を共有する人間同士の、個人や集団の成長をバックアップすることです。それは演劇ワークショップの実践や、参加者と観客が関わりあう、コミュニケーション表現のゴールである舞台上演の製作などを体験する中で生まれるものです。
ソーシャル・シアターはまさにインタラクティブな演劇の場。私自身、そのお芝居に「参加」してきました。ソーシャル・シアターは受け身ではなく主体的な体験なので、「観る」ではなく「参加する」という表現がふさわしいのです。
このような舞台では出演者と観客の明快な線引きは難しく、それが「インクルーシブ(包摂的)パフォーマンス」と呼ばれる所以でもあります。
文化的に遅れている場所で、こういう形態の劇団は自然と大きくなっていきます。「ガイド」(本人たちがそう呼ばれるのを好んでいます)は社会構造や地域で求められていることに配慮しながら、人間や集団との相互表現術が上達するよう参加者を訓練します。
ソーシャル・シアターは、社会から疎外されていると感じている人たちに教育と連帯の機会を与える手段として、学校や保護施設、リハビリセンターなどでも取り入れられています。
パンデミック後の回復が思うように進まない中で、こうしたテクニックが再び役立つことがあるかも知れません。
イタリア保健省の報告によると、自宅隔離がもたらす心理的影響として挙げられる、不安感や無力感、社会的不名誉などは、立場の弱い人々に多く見られたそうです。この場合、コロナ禍に現場の第一線で働いていた人々(看護師、医師、保健衛生関係者など)以外にも、高齢者や移民、若者、心理的障害の既往症を持つ人たちなどを指します。
このように、社会からの排除という危険を的確に退け、共生と参加、社会の統合を実現するための手段として、ソーシャル・シアターの果たす役割は大きいのです。

下の写真は、友人のディエゴ・ボッラ(写真の人物)が提供してくれたものです。
ソーシャル・シアター




特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 年齢申( さる )
  • 性別女性
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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