• 2022.07.07
  • リグーリア ブログ‐ブラジルと日本、ジェノヴァで邂逅
我々イタリア人がパイナップルのピザやチキンのパスタと聞いて眉をひそめるように、日本の皆さんには奇異に感じられるかもしれませんが、ジェノヴァではこの頃、ブラジル風のスシが「エスニック」料理のトレンドです。
そう、「ブラジル風スシ」です。「なんておかしな組み合わせだ」と思った人には、ゴメンナサイとお詫びしておきますね。
日本とブラジルが融合したこのスシは、数年前から人気のメニューです。流行りモノ、あるいは突飛な組み合わせのように思われがちですが、実際はむしろ逆で、異なる伝統がひとつに結び付いた結果のようなのです。
とは言え、ジェノヴァのフュージョン料理はブラジル風スシだけではありません。
この美しいジェノヴァは港町ということもあり、多種多様な文化が集まって溶け合い、料理にもさまざまなクロスオーバーが生まれています。
イタリアと日本の伝統を生かし、醤油と砂糖と白ワインビネガーで作ったマリネ液に漬けたマグロの「ツナ&セサミ」、ヨーロッパの豆類にカレーやクミン、コリアンダー、ターメリックなどインドのスパイスを組み合わせた「ヒヨコ豆のカレー」のほか、個人的にはご遠慮したい組み合わせですが、最新の融合メニューとして人気上昇中の「ケバブのピザ」なども、フュージョン料理から登場したレシピとして挙げないわけにはいきません。
「フュージョン」とは、同じ国の中はもちろん、はるか遠くの国や伝統の間でかけ離れた文化や料理技術が融合することを意味する、ということは知っておきたいですね。
フュージョンの本質は視野を広げ、あらゆる文化に美点を見出し、それらを結び付けて多様性を楽しんだり新しい味覚を作り出したりすることにあります。
ブラジル風スシの生みの親は、どうやら神戸から船でブラジルに渡った日本人たちのようです。
そのブラジル行きの船に乗った日本人の移民は1000人足らずでしたが、彼らの初入植から100年以上経った現在、日系ブラジル人は150万人以上にも上り、ブラジル国内の日系人コミュニティは今や世界屈指の規模を誇ります。
ブラジルで育まれた文化の交流は、当然ながら食文化の融合ももたらしました。
ブラジル風スシ、別名「テマキ」は、こうした文化の出会いから誕生したわけです。


ブラジル風スシにソースは欠かせない

このスシのブラジルでの評判はわかりませんが、イタリアのジェノヴァでの人気には理由があります。イタリア最大のブラジル人コミュニティがあるのが、ここジェノヴァなのです。ジェノヴァっ子たちは海の幸に目がないうえ、ここでは新鮮な魚介類がいつでも手に入るので、ブラジル風スシが発展するには理想的な土地だったのですね。
ブラジルの創造性と日本の伝統をミックスした、ブラジル風スシ。正反対のものが融合すると、無限の解釈が生まれるのは世の常です。
魚とスパイスとソースだけでなく、果物や野菜、そして思いもよらない食材とのマッチングを味わうことができます。
新鮮な魚と南国のフルーツを組み合わせて生まれるおいしさが、大ヒットのカギなのです。
最初にこの手の料理を無条件で歓迎し、本格的に流行して至る所にブラジル風スシの店ができたのも、ジェノヴァが港町だったからです。
お米と魚、さまざまな食材を海苔で円錐形に巻いたテマキ。ジェノヴァでは、ハンバーガーやフライドポテトよりもヘルシーなファストフード、気軽に持ち帰れるメニューとして愛されるようになりました。
ブラジルと日本を思わせる名前を冠したブラジル風スシ店も、街じゅうにたくさんあります。
それらの店ではサーモン、チャイブ、マンゴー、グアバなどを組み合わせたエキゾチックな味のスシロールを、カイピリーニャ(ブラジルで定番のカクテル)やブラジリアンビールと一緒に楽しむことができます。
テマキリー(テマキ専門レストラン)と呼ばれる店もあり、中にはサーモンとドライトマトとバジルのテマキという、ずいぶん大胆にイタリアナイズされた代物…もとい、イタリアとスシの美しき融合の結果も見かけました。
一度試してみる価値はありますし、若きシェフたちが、地元産のフレッシュな食材と異国の味覚のマリアージュで新しい味を発見しようと試行錯誤する姿を見るのも良いものですよ。

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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