その起源は、インターネットやテレビの天気予報なんてなかった時代までさかのぼり、6月28日から29日にかけての夜に行われていました。
まずお伝えしておきたいのが、心配しなくても大丈夫ということ。今でも実行できるし、簡単なうえに面白い風習なのです。
カラフ(水差し)やガラス瓶、あるいは透明な花瓶などに水を張り、卵を割って白身だけを瓶の真ん中に落とします。かき混ぜずに、6月28日から29日にかけての夜の間、窓の外や庭などの屋外に容器を置くだけ。中に入った夜露の仕業である不思議な現象が起こることがミソなのです!
伝説によれば、もとは猟師であった聖ペテロ(イタリア語でサン・ピエトロ)が容器に息を吹き込むことで中に帆船が現れ、これを通して自らの存在と人々との親密さを示したと言われています。翌朝見てみると、容器の底に帆船の形に似たものが姿を現しています。
また、この風習は6月29日から数日間の天気を知る方法としても使われていました。畑で豊かな実りを得るため、ひいては船乗りや農民が一家の糧を得るうえでも、天候というのはきわめて重要な指標だったのです。
船の帆が大きく開いていれば晴れが続き、帆の幅が狭く上を向いていたら雨になる、と言われています。帆船の形が良ければその年は豊作になるので、船の形が立派であればあるほど「吉兆」の度合いも増すのだとか。
一方、表面に付いた泡は、全般的な繁栄を表します。
ここで解説とネタバレをしておきましょう。言い伝えによると、マストと帆のある船を考案したのがこの聖ペテロだと言われています。科学的に説明すると、特にこの時期には昼夜の寒暖差が非常に顕著になりますが、寒暖差によって卵白の状態が変化し、水よりも密度が高くなったり低くなったりするわけです。夕方と朝には気温が高く、夜には冷えることにより、卵白が沈んだり浮かんだりする、という仕組みです。
基本的に、卵白は夜の間は冷気により底に沈んでマスト部分を形作り、朝になって気温が再び上昇すると、卵白はゆっくりと上昇して帆の形になるのです。
お年寄りたちによると、容器を芝生や野菜畑に置くとより実験がうまくいくのだとか。窓辺やバルコニーに置くと外気の影響が小さくなるため、外気に合わせて温度が変化する土の上が良いのだそうです。
聖ペテロの帆船
ジェノヴァにはこの聖ペテロに捧げられた教会があり、元々は猟師だったこの聖人にふさわしく、海が見える場所に佇んでいます。
この地域では、歴史あるフィエラ・ディ・サン・ピエトロが開かれています。この色鮮やかなマーケットには骨とう品やお菓子、おもちゃ、ビンテージ品などさまざまな商品を販売する露店が立ち並びます。
また、ここの庭園は6月29日の夜に打ち上げられる花火をながめるのに最高のスポットです。
今年は花火こそ見ませんでしたが、この伝統の「帆船」行事は実行しました。
帆船の形をうまく解釈できたためしはないけれど、地元に伝わる良き風習でもあるし、幼い息子も喜ぶので、ただシンプルにやろうと決めた次第です。