どうしてこうなったかと言うと、マントンとコートダジュールの一部は、フランスに併合される以前はイタリア領だったからです。
マントンは、リグーリア海岸からほんの数キロほど離れたところに位置する美しい海辺の町です。イタリアとモナコ公国の間にはさまれ、恵まれた微気候のお陰で領土のあちこちにエキゾチックな庭園を擁し、世界中に知られるおいしい柑橘類を産出します。マントンはまた設備の整った海辺のリゾート地で、ユニークな遺産を持つ芸術と歴史の町でもあります。要するに、文字どおり嬉しい驚きを味わえる場所なのです。
市営の屋内市場、マルシェ・デ・ザール(Marché des Halles)は、私のお気に入りスポットです。南フランスの色彩と香りが押し寄せ、五感を酩酊させられた私は地元の特産品を求めて屋台から屋台へと歩き回ったのでした。市場の目玉はマントン産のレモンを売る屋台で、天然レモンのほか、オイルやイワシ(レモンの砂糖漬け添え)、フォカッチャなどのびっくりするほど多くの商品に合わせたレモンの香りを堪能することができます。そのほかにも、スパイスもあれば、パンに塗って前菜として楽しむタプナード(オリーブのペーストのようなもの)はおびただしい数のフレーバーが揃い、チーズやワイン、持ち帰り用の野菜料理もあります。地元の名物料理なら、ソッカ(リグーリアのファリナータに似た、ヒヨコマメの粉で作った生地を薪の窯で焼いたもの)とバルバジュアン(リコッタチーズとフダンソウを詰めて揚げたラヴィオリ)はぜひ味わってみてほしいメニューです。
ヒヨコマメのファリナータに似たソッカ
海から見たマントンの眺め
マントンの市庁舎には、ジャン・コクトーが見事な巨大な絵画の装飾を施した部屋があり、彼のマントンへの愛情がうかがえます。
黄土色のファサードと荘厳なジェノヴァ様式の鐘楼を持ったサン・ミッシェル教会は、この町のシンボルです。教会の隣には無原罪の御宿りの礼拝堂があります。この素晴らしいバロック建築の礼拝堂は1680年から1687年にかけて建てられました。少々薄気味悪い雰囲気が漂う丘の上の墓地まで行けば、市街地に海と山、はるか遠くにはイタリアまで一望できる素晴らしい眺めを楽しむことができます。
マントンが「庭園の町」と呼ばれているのはご存知ですか?
この町は「コートダジュールの緑の肺」と呼ぶにふさわしい類まれな植物遺産を保存していることから、緑地の多くは文化省によって特筆すべき場所として認定されているのです。
ここに庭園が多く造られたのは、19世紀末にヨーロッパの貴族たちが景観や微気候に恵まれたマントンを冬の間に過ごす最適な場所として選んだからです。彼らの多くは植物学に傾倒し、旅先から珍しい品種の植物を持ち帰っては栽培するようになりました。それらがマントンの気候のお陰で繁殖したため、この街には多様な庭園が広がっているのです。
マントンのほど近くにあるロクブリュヌ=カップ=マルタン(Roquebrune Cap-Martin)は、海抜わずか300mの場所にある絵のように美しい村ですが、車以外の方法で行くのはなかなか骨が折れます。
村に到着すれば、この地を統治するために10世紀に建てられたお城までの順路もわかりやすく表示されています。地域を見下ろすようにそびえ立つお城からは素晴らしいパノラマが望め、それだけでもはるばるここまでやって来た苦労も報われるほどです。フランスで唯一現存するカロリング朝時代のお城で、その2世紀後に建てられたお城の原型となりました。まさに封建時代の絶頂期を象徴する存在です。