• 2015.04.24
  • 情熱の国 スペイン
前回、[情熱の都 マドリード]と書きましたが、この「情熱」は、一般的にマドリードではなくてスペイン全体を表す言葉として使われるのはご存じの通り。旅行会社のパンフレットを見てみると、スペインは情熱、ポルトガルは哀愁、中国は悠久。都市では、霧のロンドン、花のパリ、永遠のローマ。大阪は水の都や商いの町ですかね。魔都上海のように、百鬼夜行・魑魅魍魎・怖いもの見たさを掻き立てる言葉も。いずれの枕詞?も国や都市(まち)のイメージを膨らませてくれます。

さて、この「情熱の国 スペイン」はどこから来たのでしょうか。闘牛、フラメンコ、ピカソにパエリア、全部ひっくるめて「情熱」とは、なんだかわかったような、わからないような。 情熱はスペイン語では「pasión-パシオン」。そこでスペイン語の権威であるスペイン王立アカデミー編集の辞書を引いてみると

pasión
1.こうむる(蒙る)事
2.イエス・キリストの受難(大文字で始めて)
3.能動の反対
4.主語の受動態
5.錯乱、または無秩序な愛おしい感情
6.人に対しての強い傾倒、または偏愛
7.何かに対する激しい欲求、または熱中
8.聖木曜日と聖金曜日に教会で行われるイエス・キリストの責苦と死についての説教
9.四つの福音書に記述されたそれぞれの受難の部分

どうもスペイン語のpasión は受難、受動という受け身の意味を持つようです。そういえば日本語の「情熱」という言葉も、自らの能動的な意思というより、外からの力やその影響を受けて自身の中に湧き起こる感情なのかもしれません。このよくわからない「情熱」、広辞苑には『激しく燃えたつ感情…』とあります。冷静さや、理性にとらわれず、感情のままに突き進むということなのでしょう。

強烈な太陽の下、くっきりと光と影に分けられた闘牛場で繰り広げられる人間と牛の壮絶な戦い。魂を絞り出すかのように歌い、激しくギターをかき鳴し、狂おしいタップを踏んで踊るフラメンコ。それらを見ると、やはりスペインは「情熱」という言葉がふさわしい国なのかな、とも思えてきます。スペインの面積は日本の1.5倍、公用語はなんと5つ。そんな広くて多様な文化を持つこの国を、「情熱」の一言でくくるのは単純すぎるようにも思えますが、キャッチ・コピーとしてはよく出来ているのではないでしょうか。ついでに「光と影の国、スペイン」も定番ですね。

3月29日からイエスの受難を偲ぶ『聖週間』と、復活を祝う『イースター』に突入します。この聖週間に行われる『procesión-プロセシオン(宗教行列)』では、様々な山車が街を巡行します。山車はイエスの受難やマリアの悲嘆をテーマにしており、カトリック教徒でなくても感動させられます。 聖週間はイエスのエルサレム入城を記念する『枝の日曜日』から始まり、特に受難日と呼ばれる聖金曜日がハイライト。ゴルゴダの丘で磔刑に処せられるまで様々な辛苦を受けたイエスの姿が印象的です。そしてその三日後、よろこびに湧く復活の日曜日を迎えます。
 
003_150430_2写真1(左):『受難の金曜日』に熱狂的な群集をかき分けてどうにか撮れた1枚。ローマ総督ピラトが「この人を見よ」と言った場面の山車、なんと総重量3.5トン。イエスが磔刑の前にムチを打たれ、いばらの冠をかぶらされ、両手を縛られた姿です。
003_150430_3 写真2(右):『枝の日曜日』、イエスのエルサレム入城場面の山車。ピレネー山脈の麓・ウエスカ県にあるBarbastroという町のHPから拝借しました。
 
今年の受難日は4月3日。マドリード市内の数々の山車の中でも『マドリードの神』と礼賛される『Jesús de Medinaceli(メディナセリのイエス)』の巡行を参拝しました。その時に「情熱-パシオン」という言葉について思いを馳せた次第です。

<おまけ>
聖週間に食べられる伝統菓子の『Toriija-トリッハ』。固くなったパンを適当な厚さ(最低でも2cm)に切って牛乳やハチミツを混ぜたワインなどに浸し、溶き卵にくぐらせてから、きつね色になるまで揚げて、砂糖やシナモンを振りかけ完成。まあスペイン版フレンチ・トーストですね。カロリー満載、血糖値急上昇確約ですが、端午の節句の柏餅のように決まり物なので頂くことにしました。

003_150430_1 写真3:変形揚げ豆腐かさつま揚げにも見えますが、これが油と糖質で出来ている『Toriija』です。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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