プラド通信|山田 進|ナレッジワールドネットワーク|アクティビティ|ナレッジキャピタル

  • 2018.01.09
  • プラド通信
マドリードのプラド美術館で開催された特別展を何回かご紹介しました。それらは『手で触れて鑑賞する名画展』、ニューヨークからやってきた『ヒスパニック・ソサエティの至宝展』、日本でも開催された『プラド珠玉作品展』 や 『LBGTゲイ・プライド協賛展』など様々な趣向をこらしたものでした。

今回ご紹介するのは19世紀半ばに活躍したスペイン人画家、マリアノ・フォルトゥ―ニの画業を俯瞰する特別展です。1874年36歳で夭折した天才画家として生前から欧州画壇のみならず米国でも人気を博しました。スペイン近代絵画の御三家、パブロ・ピカソ、サルバドール・ダリ、ジョアン・ミロ、の先駆となった人と言えるかも知れません。スペイン絵画史ではゴヤとピカソの間をつなぐ画家という評価もあります。

フォルトゥ―ニの出身地は地中海に面したタラゴナ県のレウス市。ちなみに上記御三家達の故郷はそれぞれ、ピカソはアンダルシアの港町マラガ、ダリはフランスと隣接するヘロナ県のフィゲラス、ミロはカタルーニャの中心都市バルセロナ、いずれも地中海沿岸です。生まれたときに受けた陽光と透き通る空気の洗礼が天賦の才能を開花させたのではないでしょうか。もしも彼らが鉛色のどんより重たい空の下に生を受けたとしたならばその画才が向かう先にあったのは全く違った世界だったかも知れません、などと門外漢は考えてしまいました。

フォルトゥ―ニの代表作の一つとなるのが小さな作品ではありますが、プラド美術館所蔵《日本風サロンにいる画家の子供達》です。一昨年、東京で開催されたプラド展にも出品されましたのでご覧になった方もいらっしゃるでしょう。現在入館券のモチーフの一つにも使われる名作で、イタリアの風光明媚な港町ナポリの郊外にあるポルティチ海岸に借りていた別荘での一コマです。

《日本風サロンにいる画家の子供達》 プラド美術館HPより

夏の昼下がり、ナポリ湾からの潮風までも感じられそうな、まったりとした雰囲気の中、日本趣味で内装された居間の長椅子で寛ぐフォルトゥ―ニ自身の子供達、大きな扇子を手にポーズをとっているのは娘のマリア・ルイサちゃん、6歳にしてすでにコケティッシュな女性の仕草がかわいらしく描かれています。頭にお面らしい物をのせた裸ん坊は3歳になった息子でお父さんと同じ名前のマリアノ君。下半身を包み込む刺繍されたサテン生地の深い群青色とお姉さんが身をゆだねているクッションの鮮やかな赤橙色の対比、この色彩感覚もいかにも東洋的ですね。

この作品は彼らの祖父にあたる義父のフェデリコ・デ・マドラーソに孫達の姿を伝える為に描かれました。名声を得たおかげで、絵画市場におもねることなく思うがままに描ける自由な環境で筆を進めた時期の傑作と言われています。このお舅さんも後にプラド美術館の館長職を務める程の高名な画家でした。

今回のフォルトゥ―ニ展のパンフレットとプラド美術館の入館券、上がフォルトゥー二作品、 下は義父のフェデリコさんが描いた《ビルチェス伯爵夫人》がモチーフです。

彼の画風に大きな影響を与えたのが従軍画家として滞在した北アフリカはモロッコでの体験です。8世紀間にわたるイスラム教徒支配の歴史があるスペイン自体、西欧の一番西にありながらどこか東洋の香りがする国ですが、フランスに近いカタルーニャ出身で、西欧芸術の中心であるローマやパリで過ごした彼はモロッコの鮮烈な光とサラセン文化のエキゾティシズムに魅せられたのでしょう。

《モロッコ人達》プラド美術館HPより

事実、亡くなる2年前までの2年間、1870年から1872年までをスペインで最もイスラム文化が色濃く残る古都グラナダで過ごしています。華やかな成功を収めた場所から遠く離れた西欧の片隅で,想像力の羽をのばして制作されたこの時期の作品を集めた展覧会も現在セビリアで開催されています。

セビリア展のパンフレット

日本ではあまり知られていない画家ながら、70年以上前にこのフォルトゥ―ニに魅せられた日本人がいました。その人は須磨彌吉郎です。先の大戦中、 在スペイン特命全権公使としてマドリードに駐在し、公務の傍ら精力的にスペインの美術作品を収集、その数1760点にも上りました。終戦後1200点余りはスペインに留まった模様で、日本に運ばれた中の501点は現在長崎県美術館が『須磨コレクション』として所蔵しています。

彼の地で集めた膨大なコレクション中、近代絵画に於いて須磨氏が特に惹かれた画家はフォルトゥ―ニだったようで、収集した作品はなんと200点余り。その熱い思いは画家の故郷であるレウス市にも伝わり、市に設立されたフォルトゥ―ニ美術館の名誉館長に推挙されるほどでした。また、絵画だけではなく、画家ゆかりの品々も集めていて、レウス市から寄贈されたフォルトゥ―ニ愛用の絵筆などもコレクションの一部だったそうです。

長崎県美術館『須磨コレクション』中、マリアノ・フォルトゥ―ニ作《人物習作》

余談ながら、現在バルセロナで建設中のサグラダ・ファミリア教会を設計したことでも有名な建築家アントニ・ガウディもフォルトゥ―ニと同郷、レウス市出身です。1980年代、ウィスキー会社のテレビCMで紹介されるまでガウディの名は日本ではほとんど知られていませんでした。しかし須磨氏は当時から“ガウディは東洋主義も感じられる天才である”と高く評価していたとのこと、美術品収集にとどまらない彼の美意識の高さを垣間見る思いがします。

Fortuny (1838-1874) 展
会期: 2017年11月21日~2018年3月18日
会場:マドリード国立プラド美術館

Fortunyによる幻想のアンダルシア展
会期:2017年9月21日~2018年1月7日
会場:セビリア CaixaForum Sevilla

特派員

  • 山田 進
  • 年齢寅( とら )
  • 性別男性
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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