• 2018.02.13
  • プラド通信・番外編
昨年の4月、赤坂迎賓館に於いてフェリペ6世国王陛下、安倍内閣総理大臣のご臨席を賜り、東京と神戸でプラド美術館展を開催する旨の合意書が取り交わされました。1868年に日・西修好通商航海条約締結により外交関係が樹立されてから丁度150周年の節目となる今年、スペイン・日本友好記念行事の一つとして行われる展覧会です。

展覧会東京展パンフレット

現国王の5代前、フェルナンド7世によって1819年に開館したプラド美術館は他館との交流にも積極的に取り組んでいますが、来年2019年に節目の開館200周年を迎えますので、作品の貸し出しを一切控えて十全な形で来館者を迎える意向です。この事を考慮すると今年、日本で61点ものプラド美術館所蔵作品を鑑賞できるのは大変貴重な機会となります。

この展覧会は『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』と名付けられ、17世紀スペイン黄金世紀(*)の巨匠ベラスケスの7作品を主軸に、スペインはもとよりイタリア、フランドルやフランスなどベラスケスに影響を与え、また彼から刺激を受けた欧州各地の画家達の作品を厳選し、それらを芸術、知識、神話、宮廷、風景、静物、宗教、と7つテーマにまとめた形で構成されています。

フランス印象派の草分けと称されるエドゥアール・マネが “画家の中の画家”と最上級の評価をしたディエゴ・ベラスケスは、当時スペインでは最も人口が多く、新大陸貿易の拠点として華やかな文化が開花した国際都市のセビリアに1599年に生を受けました。22歳にして故郷を離れマドリードへ移り、当時のフェリペ4世国王の宮廷で御用画家として活躍するのみならず、国王の厚い信任を得て出世街道まっしぐら、宮中の重職を歴任し、後年そのあまりの激職の故に過労死で61歳の生涯を閉じました。

今回日本に貸し出されるそうそうたる作品群の中であえて主役ともいえるのがパンフレットの表紙にもなった《王太子バルタサール・カルロス騎馬像》でしょう。父フェリペ4世が待ち望み、漸く授かった後継者が自信をもって国を背負う将来に立ち向かうお姿です。王家の一員を描いた“肖像画”ですが今回は風景のテーマに組み込まれる程見事な背景にもご注目下さい。『los cielos velazqueños・ベラスケス風の空』という言葉が生まれた程のドラマチックな空、その下に広がる残雪を頂いたグアダラマ山脈や近景に描かれた新緑が霞むパルドの丘などから早春のマドリード郊外の凛とした空気が感じ取れます。

《王太子バルタサール・カルロス騎馬像》。プラド美術館HPより

この作品はフェリペ4世が離宮として現在のプラド美術館脇に造営させたブエン・レティ―ロ宮殿内の『Salón de Reinos・諸王国の間』に飾られていました。その配置は扉を挟んで左側に国王の騎馬像、右手に王妃の騎馬像、そして扉の上部に王太子の騎馬像となっていたので、見上げて鑑賞する際の視覚効果を考慮して王太子の馬を若干メタボ気味に描いています。

《フェリペ4世騎馬像》。プラド美術館HP より

《王妃イサベル・デ・ボルボン騎馬像》。 プラド美術館HPより

もしかすると今回の展覧会はこの作品をプラド美術館以外の場所で鑑賞できる最後の機会になるかもしれません。と言うのもブエン・レティ―ロ宮殿は紆余曲折をへて2010年まで軍事博物館として使用されていたのですが、2016年プラド美術館の分館となり、修理・復元が完成した際には『諸王国の間』の装飾も造営当時の姿が再現される可能性大です。施主である国王陛下と請け負った画家の意図を汲み本来あるべき場所に戻るのですから余程の事がない限りはここが安住の地になるのではないでしょうか。

当時の各肖像画の配置。 1990年開催プラド美術館 ベラスケス展公式図録より

(*)黄金世紀(時代)とは、スペインがイスラム勢力を駆逐し、コロンブスがアメリカ大陸に到着した1492年以降の約2世紀間で、“陽の沈む所ない大帝国”と呼ばれ欧州各地のみならずアメリカ大陸や東南アジアまでを支配していた時期です。特に本国では文学や音楽、美術などの芸術活動が隆盛を迎えました。《ドン・キホーテ》の作者文豪セルバンテスもこの黄金世紀の人です。


日本スペイン外交関係樹立150周年
『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』
『VELÁZQUEZ AND THE CELEBRATION OF PAINTING:THE GOLDEN AGE IN THE MUSEO DEL PRADO 』

【東京展】
会期: 2018年 2月24日(土)~5月27日(日)
会場:国立西洋美術館

【神戸展】
会期: 2018年 6月13日(水)~10月14日(日)
会場:兵庫県立美術館

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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