• 2018.06.14
  • コルドバ人のカタツムリ愛
前回の《コルドバ花のパティオ祭り》に続き今回は“花より団子”でコルドバ名物カタツムリ、スペイン語ではcaracolesカラコレス、をご紹介します。この愛らしい?生き物、ヨーロッパではすでにギリシャ時代には養殖までされていたとか。世界遺産のコルドバ歴史地区にあるローマ橋を架けた2000年前のローマ人達もカタツムリでタンパク補給をしていたことでしょう。

日本では食材としての馴染みは薄いカタツムリ。その料理と聞くと思い浮かべるのはフランスの《ブルゴーニュ仕立てエスカルゴ》ではないでしょうか。パセリ、ニンニクを混ぜ込んだカタツムリ専用ソースのエスカルゴ・バターをまとい、この料理のためだけに作られたエスカルゴ・トングなる殻挟み器具、はてはカタツムリ摘出用フォークまで従えておごそかに登場する名物料理ですよね。

ところがお隣、イベリア半島では、昨年特派員の太田さんが報告して下さったポルトガルと同じく、スペインにおいてのカタツムリも優雅なフレンチ食材からたちまちB級に転落または昇格?しました。至って庶民的というか、ちょっと一杯という時のアテ的存在でして、布のテーブル・クロスがセットされている様なレストランでの御提供は考えられません(*)。

この低脂肪、高タンパク、カルシウム、鉄分、ビタミンB3まで豊富なヘルシー優良食材のカタツムリ、スペイン各地で色々な料理法で食されています。しかし、何と言っても南のアンダルシア地方での消費量が多いようで、特にコルドバ市民にとっては自慢のご当地4大グルメ、rabo de toroラボ・デ・トロ(オックス・テール)、flamenquínフラメンキン(ロール・カツ)、salmorejo サルモレッホ(特濃ガスパッチョ・スープもどき)の一角を担う名物料理です。

このカタツムリ愛に答えるべく、コルドバ市当局は管理する公園や大通りに毎年期間限定で仮設カタツムリ屋台の設置許可を与えています。営業品目に許されているのはカタツムリとお飲み物のみ。


カタツムリ屋台人気投票で2等賞を二回獲得した名物店。

2018年は46店舗に営業が許可されました。期限は2月23日から6月14日まで、つまり初物の入荷が始まる“走り”から“盛り”を経て“名残り”迄のほぼ4か月です。その期間中一番おいしくなる“旬”の5月に、1000kgものカタツムリを市民に大盤振る舞いする《カタツムリ・デー》がコルドバ・カタツムリ販売業者組合によって開催されます。八回目の今年は5月13日でした。

コルドバで食べられるカタツムリは大きく分けて2種類、それぞれ違った調理法があります。


1 透き通ったお吸い物仕立の小さなカタツムリは《チコス・エン・カルドchicos en caldo》 。こちらで使用するのは学名Theba pisana 和名マジョルカ・コマイマイ。
検索したらなんと、農林水産省による“輸入植物検査病菌・害虫発見記録”に登録されていました。日本では害虫でもコルドバでは市民熱愛食材です。


開店早々の大鍋、コンソメ仕立てのチコス、アクセントの唐辛子がいい仕事してます。

2 トマト、パプリカ、アーモンドなどを使ったソースで大きなカタツムリを煮る《ゴルドス・エン・サルサgordos en salsa》 。この料理に使うのは学名 Otala lactea、 和名はスペイン・サラセン・マイマイとイスラム文化が花開いたアンダルシアにぴったりの名前が付けられています。


ソース煮のゴルドス。


この②を基本に激辛バージョン、カルボナーラ風、はてはカタツムリ炊き込みご飯まで登場、各屋台が工夫を凝らしカタツムリ料理の可能性を追求しています。とは言っても、拝見していると8割方のお客様が注文するのは①のコンソメ仕立て。食事の前に軽く一杯に最適な、前菜の前に頂く前々菜の位置づけでしょう。

いざ食べる時に使用するのは専用の殻つかみやフォークではなく、ただの楊枝とティー・スプーン、スプーンですくって殻ごと口に投入、スープやソースを味わってから殻を指でつまんで、楊枝で中身をくじり出してご賞味、小さい方はチュッと吸えば出てきます。空になった殻は用意された洗面器やボールに廃棄。①にも②にもパンが添えられているので、スープやソースに浸して頂きます。こんな食べ方もB級感全開ですね。


“あっさり”と“こってり”のカタツムリ2種盛り、殻入れは洗面器。


宴のあとです。こちらは気取ってステンレス・ボールが殻入れでした。

屋台だけでなく、街角のファスト・フード店でも定番の2種類ご提供。この店では2大コーラを左右に従えて存在感を主張していますね。白い植木鉢に植わっているのは①のコンソメ仕立ての調理に使用するスペアミントです。


ファスト・フード店の店先にて。


(*)カタツムリが立派なレストランのメニューに登場する例外の一軒は、バルセロナの下町にある老舗レストラン、その名も“Los Caracoles・蝸牛亭”。リセウ大劇場・El Gran Teatro del Liceuというオペラ・ハウスのご近所という場所柄、やんごとなき方々が観劇の際にこの店でカタツムリをつまんで小腹を満たしていたとか。現在ではこの店を載せていないガイドブックは存在しない程の超有名レストランです。 ちなみに当店では②のソース煮タイプのみご提供。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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