夜の地球を見ると、美しく光り輝く町々の様子で人間の営みの分布を実感させてくれます。また漆黒の闇に包まれた地域は、火の気のない密林で夜行性の動物たちが跋扈しているか、はたまた乾燥しきった砂漠地帯、それとも生命の絶えた極寒の地かしら、などと想像してしまいます。
反対に昼間の景色はそれこそ“地球は青かった!”広大な大洋と大陸の様々な姿が観察できます。もちろん人間が長い年月の間に作り上げてきた歴史的遺産、町々や工業地帯、等々を上空彼方から見ることができますが、肉眼ですぐにそれとわかる一つの建造物となるとそれほど多くはありません。総延長6000kmの壮大な万里の長城もその幅が6m~10mと狭いので肉眼で見つけるのは難しいとのこと、エジプトのピラミッドでさえあえて探さないと判別は困難なようです。
そこで登場するのがスペイン南部で営々と築かれてきた“プラスチックの海”、地中海沿岸、特にアルメリア県に集中している温室栽培ハウス群です。2006年から2007年にかけての第14次ステーション長期滞在ミッションで217日間指揮をとったスペイン系アメリカ人マイケル・ロペス・アレグリア船長は、“軌道上から最もたやすく観察できる地球上の人工建造物はアルメリア県の温室栽培農園です”とコメントしています。
宇宙ステーションからみたイベリア半島と北アフリカ、丸で囲ったのが温室が最も密集しているEl Ejidoエル・エヒード市です。画像UNICA Group提供
拡大するとこうなります。2017年の統計で温室総面積は12、647ヘクタール。大阪市の約55%にあたる広さです。画像NASA提供
温暖な気候にもかかわらず、半砂漠的な痩せて乾燥した土地と強風のために農耕には適さなかった地域で、サボテンやオリーブなどを細々と栽培していた程度でしたが、50年程前から防風の目的で始まった温室栽培技術の発達で現在ではトマト、パプリカ、キュウリ、メロン、スイカ等々の野菜や果物からバラ、カーネーション、などの花卉まで栽培する近代集約農業のリーダー的存在になりました。
皇帝やファラオンから命令されたわけでもなく、自分たちの生活を守る必要上、知恵と工夫を凝らし、努力を重ねて作り上げた結果、ヨーロッパの菜園と称されるようになったアルメリア県の温室農業。 この景色から“Mar de Plástico-プラスチックの海”と呼ばれています。
そこで気になるのは、ここ数年来ストローを廃止するなど、環境に与えるプラスチックやビニールの影響について意識が高まってきた昨今、この広大な“プラスチックの海”からの廃棄物もさぞかし環境汚染に貢献?していると思いきや、3年ごとに張り替えられた使用済みプラスチックはリサイクル業者が買い取り、輸送用のコンテナや、ストリート・ファニチャーと呼ばれる、道路標識、ベンチ、ゴミ箱、公園の遊具などに変身するそうです。
持続可能な集約農法“プラスチックの海”から出荷される安心・安全な農産物はスペイン国内やヨーロッパ各国の食卓のみならず、中近東や海を越えてアメリカ合衆国まで届き始めたとのこと。すでに日本でもおなじみのスペイン産の本マグロ、その刺身に添えるツマもスペイン産の温室キュウリ...とはなりませんかね。