• 2019.08.14
  • 芸術の都バルセロナ
スペインと聞くと情熱の国、パエージャ、闘牛、フラメンコと長年持たれていた固定観念がありましたが、興味の対象も時代とともに変化しています。30年ほど前まではスペインを訪れる日本人グループの日程に含まれることがほとんど無かった街バルセロナ、昨今旅行会社のスペイン旅行パンフレットを拝見するとその旅程にバルセロナが入っていないツアーを見つけるのは至難の業です。

80年代、ウィスキー会社のテレビCMで紹介されたのがきっかけで、天才建築家ガウディ、しいてはバルセロナの存在が日本でも広く知られるようになりました。 今ではサッカー人気、グルメ・ブーム、世界遺産に指定されたガウディの作品群やピカソ、ダリ、ミロに代表される近代絵画の巨匠達を育てた街の魅力に世界中の人々が集まる“超”人気デスティネーションです。アルハンブラ宮殿は知らなくてもサグラダ・ファミリア教会は多くの日本人が一度ならずテレビや雑誌でご覧になっているはずです。

このバルセロナ人気を支える街の景観、個性的な建築、スペイン近代芸術、などの源となったのが19世紀半ばから20世紀初頭にかけての大きな文化的潮流でした。 スペインでいち早く産業革命の波に乗り、豊かになったバルセロナのブルジュア階級の後ろ盾を得て花開いた街。米西戦争敗戦などで閉塞感に覆われていた首都マドリードとは対照的に華やかな時代を築き上げ、現在の姿に引き継がれています。

その芸術・文化の精華とも言うべき軌跡をまとめて体験できる貴重な展覧会が日本を巡回中です。
始まりの長崎では展覧会入り口に現在のバルセロナ市街の衛星写真を引き伸ばした巨大なタイトル・パネルを展示し、2000年前ローマ時代起源の旧市街を核として発展した整然とした都市計画が一目でわかる仕掛けとなっていました。


『奇跡の芸術都市・バルセロナ展』長崎県美術館のパンフレット。


長崎展覧会入場スペースに掲げられた巨大なタイトル・パネル。


鎖国時代、唯一外国文化との交流があった港町長崎と、古くから地中海文化の出入り口としての良港をもつバルセロナという共通点もあり、東洋でも有数の充実したスペイン美術コレクションを持つ長崎県美術館からこの巡回展が始まったのもむべなるかなですね。その後、姫路、札幌、静岡と巡って最後は東京のまん真ん中、新装なった東京駅丸の内駅舎で幕を閉じる予定です。

通常の美術展とは違い、絵画や彫刻だけでなく都市計画や建築の資料、家具などの工芸品、宝飾品やポスター、富裕層の生活を垣間見るコーナーまで展示して当時の大きな文化的潮流を提示し、どのような雰囲気のなかで芸術が醸成されていったのを体験できる構成です。これからバルセロナへお出かけの方には必見の展覧会でしょう。


ガウディのデザインした椅子と現在まで続く宝飾品工房”マリエラ“のリュイス・マリエラ作ペンダント。長崎県美術館展覧会パンフレットより。


『奇跡の芸術都市バルセロナ展』
長崎県美術館 19年4月10日(水)~6月9日(日)(終了)
姫路市立美術館 19年6月29日(土)~9月1日(日)
札幌芸術の森美術館 19年9月14日(土)~11月4日(月)
静岡市美術館 19年11月15日(金)~20年1月19日(日)
東京ステーションギャラリー 20年2月8日(土)~4月5日(日)

蛇足
ドン・キホーテの物語も終わり近く、ラ・マンチャの故郷の村へ戻る手前の旅籠で主人公はバルセロナに思いを馳せ、賛美する言葉を残しています。
『礼節の手本、外国人を迎える宿、貧しい人々の避難場所、勇者達の故郷、侮辱された人々が報われる土地、固い友情に快く応えてくれる所、その場所、その美しさは他に類を見ない街バルセロナ・・』 後編72章。

寛容の精神と進取の気風は昔からバルセロナ、ひいてはカタルーニャの美徳であったようですね。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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