• 2021.03.02
  • ワクチン接種状況2021年2月16日

図1.接種状況報告書2月14日2021年

スペインの新型コロナウイルス感染症予防ワクチン接種キャンペーンはクリスマス直後から始まり、すでに約50日経ちました。Pfizer/BioNTeck社製からの接種で、1月中旬にはModerna社製が加わり、2月9日にはAstraZeneca社/Oxford大学共同開発ワクチンも19万3800回分入荷、2月14日時点で延べ256万1608人が接種を受けその内107万0091人が2回目の接種を終えて免疫付与されています。50日間で一日平均にすると約5万1232回の接種が行われている計算になります。
図1.2020年12月27日から2021年2月14日までの全国17州・2自治都市におけるワクチン供給量(3社別とその合計)・接種済み回数・供給量に対して接種済みの割合・2回接種済みの人数・最終報告日です。ここでは新規にAstraZeneca社/Oxford大学共同開発製品が参加しています。

供給についてはスペインが受け取るワクチン総数は上記3社製合計で7700万回分ですので16歳以上の人口分(*)はほぼ確保されていると思われます。またこれ以外にもEUとして契約が済んでいるJanssen/J&J社, CureVac社 Sanofi Pasteur/GSK社や交渉中の Novavax社などいくつかの製薬会社のワクチンも手に入る予定なので供給に関しては問題なさそうです。しかし、世界に目を向けると未だ130余りの国ではワクチンが届いておらず、スペインでもこの貴重な資源を出来る限り有効に使用して世界中に行きわたらせようとの努力が続けられています。(*)スペイン全人口は4745万人です。

この有効利用の一環として、エルチェ大学総合病院予防医学科長でバレンシア州予防医学公衆衛生学会会長の フアン・フランシスコ・ナバーロ氏は≪(1バイアルから)7回分の投与は完全に可能です≫とコメントしました。
“Es totalmente posible la séptima dosis”, comenta Juan Francisco Navarro, presidente de la Sociedad Valenciana de Medicina Preventiva y Salud Pública y jefe de Sección de Medicina Preventiva del Hospital General Universitario de Elche.
https://www.redaccionmedica.com/secciones/sanidad-hoy/vacuna-covid-pfizer-biontech-7-dosis-5922

しかし 同記事中、スペイン看護ワクチン協会(ANENVAC)のホセ・アントニオ・フォルカダ(José Antonio Forcada)会長の意見では≪1mlのロー・デッド・スペース注射器とスキルを持つ看護師・医師が行えば7回目を利用することは可能であるが0.3ml以下の投与になる危険性とスキルを身に着ける為の時間を考慮すると、現在の接種ペースを滞らせてまで実行するのは望ましいことではない≫としています。

いずれにせよこの1バイアル(1瓶)から何回分のワクチンが接種できるかの問題については、開発及び製造を担当しているPfizer/BioNTeck社自ら接種開始からほんの一ヵ月で5回から6回と仕様を変更しました。 個人的には近い将来、適切な注射器の使用と熟練した手順をもってすれば7回抽出がスタンダード化される可能性も無きにしも非ず、と希望的観測をもってしまいます。

一方、日本には2月12日に漸くPfizer/BioNTeck社製ワクチンが37万回分(7万4000バイアル)入荷したそうですね。一人2回接種ですから18万5000人分到着したとのことです。もし最新の仕様書通り1バイアル当たり6回分とれたら合計22万2000人分になり3万7000人多くの人に接種出来た計算になります。
 


明日(2月17日)から始まる医療従事者への先行接種に続いて4月からは65歳以上の高齢者の接種もスタート、約3ヶ月の間に一人2回の接種を終える計画とか。高齢者約3600万人の7割程度が接種希望と仮定すると2500万人に2回接種して合計5000万回を91日で終了するには土日祝祭日も含めて一日平均約55万回の接種が必要でしょう。入荷したワクチンを無駄なく使ってほしいと思います。

厚生労働省は2月9日発出した『新型コロナウイルス感染症に係る予防接種に関する手引き1.2版』内で“ 新型コロナワクチンを接種するための注射針・シリンジ(注射筒)は、国が確保・供給する”
“※ 正式には薬事承認の際に決定されることになるが、ファイザー社製のワクチンは、特殊なシリンジをのぞき、一般的なシリンジでは1バイアル当たり五回分となるので、それを念頭に準備を進めること。“
 としてあくまでも国が確保・供給する注射器を使用して1バイアル5回採取を基本とする姿勢です。

何しろ今回の接種キャンペーン準備の段階で5回分しか抽出できない通常タイプの注射器を2億本以上発注・購入済なので、昨年多量購入した布製マスクのように無駄に備蓄に回す訳にはいかないのでしょう。

繰り返しになりますが、希釈準備が済んだ1バイアルには2.25mlのワクチンが入っていて、1回分は0.3mlで5回接種すると0.3mlx5回で1.5ml使用することになります。総量の2.25mlから1.5mlを引けば残りは0.75mlですからこの分(2.5回分)は廃棄されてしまうことになるわけですね。

もちろんバイアル容器内や注射器、注射針内に残った量、エア抜手順で捨てられた分も考えて最初は多めに見積もって5回接種と決めたのでしょうが、使用する器具(注射筒・注射針)や手順の丁寧さによっては6回分どころか7回分も抽出できる可能性もあるので前述のスペインでの試みのように、高価で貴重なワクチンをできるだけ有効に使う手だてを考えることも必要ではないかと門外漢は愚考する次第です。

ワクチン接種が裕福な先進諸国に集中していて、既に医療関係者や高齢者、重症化リスクの高い人たちへの接種が終了し一般の人々への接種が始まっている国もある中で、130か国余りの国々(*含む日本)では未だにワクチン接種が始まっていない現状ではワクチンの一滴がどれほど貴重なものなのかを認識すべきかもしれません。(*)2月16日時点

このワクチンの偏在を解消して世界全体でパンデミックに立ち向かうためにWHO(世界保健機関)はワクチンの均等分配を目指して“COVAXファシリティー”を立ち上げました。高所得国が拠出した資金を基に途上国にワクチンを分配するシステムです。日本も参加しているこの運動でワクチンの提供を呼び掛けている中ワクチンの無駄遣いは出来る限り避けたいものです。

蛇足ながら、日本では菅総理大臣が就任後初の施政方針演説の中で東京オリンピック・パラリンピック開催の意義の一つは≪人類が新型コロナに打ち勝った証≫とおっしゃいました。もし開催中止になってしまったら≪人類が新型コロナウイルスに打ち負かされた証≫ともとられかねないので、入荷が始まった貴重なワクチンを有効利用し、是非とも五輪開催に漕ぎつけてほしいと思います。

総理のお言葉の中で≪人類が打ち勝った証≫とあり≪日本が打ち勝った証≫ではないところに注目すると、ワクチン接種が完了したほんの一握りの国々だけの五輪ではなく、貧富の差を越えて世界中のアスリート達が参加出来る条件を整えるためにもワクチン偏在を克服しなければならないのではないでしょうか?


スペインからのレポート記事が前回同様日本の状況を危惧する話題になってしまいました。遠きにありて思ふ故郷への老婆心、という事でご容赦ください。 

追記 このPfizer/BioNTech社のワクチン、EUでの製品名はCOMIRNATY、 日本語表記ではコミルナティと命名されました。由来はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)、mRNA(メッセンジャーRNA)、community(コミュニティ)、immunity(免疫)という言葉を組み合わせた造語だそうです。日本ではファイザーの名前が強調されていますが、昨年7月2日ファイザーではなくバイオンテックを名義人として経産省特許庁に商標登録出願届が提出されています。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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