• 2021.07.06
  • サラマンカ サン・エステバン修道院
 ようやく非常警戒体制再延長解除の運びとなり、待ちに待った国内旅行を決行したのも束の間、近頃主流になりつつある新型コロナウイルス・インド変異株に対しては“Comirnaty(ファイザー・ビオンテック)ワクチンの中和抗体生成能力は五分の一”などという聞き捨てならない情報が6月5日付けで入ってきました。

“Those fully vaccinated with the Pfizer COVID-19 vaccine are likely to produce five times lower levels of neutralising antibodies against the Delta COVID variant (dominant in India) finds a study published in the Lancet.”
“ファイザーCOVID-19ワクチンの2回接種を受けた人は、デルタCOVID変異体(インドで支配的)に対して中和抗体生成が5倍低いレベルである可能性が高いという研究がランセット紙に掲載された。”(*)
(*)https://fit.thequint.com/coronavirus/vaccine-treatment/shorter-vaccine-dosage-gap-needed-for-delta-variant-lancet-study

 となるとファイザー2回接種組の私としましても、夏のバケーションシーズンを迎えて≪EUグリーンパス発行→欧州連合加盟各国からどんちゃん騒ぎ大好き民族がスペインのリゾート地へ大移動→第4波デルタ変異株感染拡大→医療ひっ迫→非常警戒警報再々発出→外出自粛要請→県をまたぐ移動禁止≫の筋書きが繰り返される可能性が大なのでその前に近場旅行駆け込み催行となった次第です。

以前のような夏の藪入り一時帰国旅などは日本政府による厳密かつ厳格な水も漏らさぬ出入国管理水際対策に阻まれて、東京オリンピック・パラリンピック関係者特例入国枠にでも紛れ込まない限り無理な話でしょうね。いかにEU内有効グリーンパス(ワクチンパスポート)を所持していても日本と比べて新型コロナウイルス対策が遅れていると言われているEUの証明書など世界に誇る日本モデルの厳しい基準に照らされての承認は難しいと思われます。


EUデジタルグリーンパス。

で今回の目的地はマドリードの西北約220kmにある学園都市サラマンカです。オックスフォードやハイデルベルグ、コインブラ、とかボローニャ等の地名を聞けば伝統ある大学を頭に浮かべるように、それらと肩を並べる歴史を誇る1218年創立サラマンカ大学のある町です。いうなれば中世から近代にかけてヨーロッパの知性・知識を集約した土地でもあるわけでスペイン帝国時代のシンクタンクとも称され、ドン・キホーテの作者セルバンテスもサラマンカのことを『科学の母・madre de las ciencias (*)』と呼んでいます。
(*)模範小説集・見せかけの叔母(Tía fingida・The pretended aunt)


揚鶏屋さんもサラマンカ自慢。

またこのサラマンカのあるカスティージャ地方は一般にスペイン語と呼ばれているカスティージャ語の発祥の地でもありこの言葉の標準的な形を保っているとも言われていて,この町にもスペイン語学習を目的で世界中から留学生が集まってきます。日本の外務省入省後スペイン語専攻者の研修先の一つとしても選ばれていました。



じつは私自身おおよそ30年程前のふた夏をスペイン語を勉強するためサラマンカで過ごしました。いまでも滞在していた学生寮の隣にある新旧司教座聖堂の屋根で集団育児真っ最中のコウノトリ達のクラッタリング音(嘴を小刻みに打ち合わせてカタカタ出す音)を聞きながら雪のない蛍雪の日々を送ったことを懐かしく思い出します。

今回はその寮からほど近い歴史地区にあるフランシスコ会ラス・クララス(las claras)女子修道院の果樹園跡地に作られた宿に宿泊しました。目と鼻の先にはドミニコ会サン・エステバン(San Esteban)男子修道院があります。


サン・エステバン修道院と教会。

そしてこの修道院でコウノトリ達に再開することができました。スペイン語ではcigüeña blanca,日本語に訳すとヨーロッパコウノトリまたは朱嘴鸛(シュバシコウ)です。大阪でも天王寺動物園の“鳥の楽園”にお住まいだそうで、現在臨時休園中の同園は動物たちの様子をライブ配信なさっています。


修道院と教会の屋根に寄宿しているコウノトリ達(赤〇)、周りを飛び回っているのは最近南アフリカから1万1000km以上の長距離を飛来してきたvencejo ヨーロッパアマツバメ・グループ(青〇)です。
この距離はほとんど大阪・サラマンカ間と同じですね。

この修道院には先日ご紹介したアルバ家の話題に登場した第3代アルバ公爵の棺を納めたチャペル(礼拝堂・墓室)があり参拝してまいりました。 前回からアルバ公爵と書いていましたが実は大公(gran duque)で公爵の上、王の下という爵位最上位をお持ちの方でした。道理でカルロス5世皇帝お抱え絵師ティチアーノにも注文できたのですね。


修道院の教会内にある第3代アルバ大公の礼拝堂・墓室


第3代アルバ大公 ティチアーノ作 アルバ家マドリード・リリア宮殿所有


 現在の修道院は13世紀半ばにドミニコ会によって設立された教会と修道院を取り壊し1524年アルバ大公の兄である枢機卿フアン・アルバレス・デ・トレド(Juan Álvarez de Toledo)によって建立が始められたものです。菩提寺という訳ではなさそうですがアルバ家とは深い絆で結ばれている修道院です。

そして旧修道院にはサラマンカ大学で神学教授も兼任していた修道院長であるディエゴ・デ・デッサ(Diego de Deza)僧の後援を得たクリストファー・コロンブスも逗留していたそうで、西周りで黄金の島ジパングに行くという壮大なインディアス事業を何とかスペインのカトリック両王に認めてもらおうと、知識の宝庫であるサラマンカで航海・天文・数学などの専門家による分科会というか諮問委員会の科学的裏付けを求めたのでしょう。

先日訪れたマドリードにあるアルバ家の邸宅リリア宮殿の図書室には21通ものコロンブスの書簡が保存されていますがアルバ家とサン・エステバン修道院、コロンブスとサラマンカの深い関係が見えた気がしました。


スペインで最も美しいとされているサラマンカのマジョール広場・Plaza Mayor


マジョール広場の柱に付けられたコロンブスのレリーフ

特派員

  • 山田 進
  • 年齢寅( とら )
  • 性別男性
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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